本研究が対象とする熱機関は,着火性が異なる二種類の燃料を別々の燃料噴射装置から異なる時期に供給する.これにより形成される希薄な予混合気とリッチな混合気を段階的に着火・燃焼させることでクリーンな排気ガスを維持しながら燃焼率の制御と高効率化を実現する. 平成25年度は,供給する二燃料の着火性に着目した.対象とする熱機関では,同じ着火性の燃料を供給した場合でも混合気の濃淡(当量比)だけで着火・燃焼が時間・空間的に段階的に進行することが知られている.しかし,本研究において実施した化学反応論的解析からは,着火性の異なる二燃料を用いれば,比較的狭い混合気の当量比範囲においても効果的に燃焼率が抑制されることが示された.これは未燃炭化水素や一酸化炭素の原因となる希薄混合気と窒素酸化物の原因となるリッチ混合気の形成を回避しても燃焼率を抑制できるメリットを示している. また,このシステムでは,自己着火性の高い燃料のリッチ混合気が着火源となり,その後に自己着火性の低い燃料からなる希薄予混合気が燃焼する.そのため,希薄予混合気の化学反応の影響は無視されることが多い.一方,本研究では希薄予混合気を形成する燃料の着火性を変え,その影響を調べた.その結果,希薄予混合気が低温酸化反応と高温酸化反応の明確な熱発生を示さない場合でも,その着火性によってリッチ混合気の着火時期を変えることがわかった.これは希薄予混合気の着火まえ反応において生成された化学種が,リッチ混合気内に取り込まれ,その化学反応速度を変えたことを意味しており,両混合気の着火時間差を利用して燃焼率を制御する熱機関において重要な知見である.
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