研究課題/領域番号 |
23760199
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
星野 洋平 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90374579)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 振動制御 / 大規模除振システム |
研究概要 |
本研究課題の目的は、多数のアクチュエータを用いて運用される大規模な動的制御システムにおいて、一部のアクチュエータの劣化や破損によって装置全体の性能が大きく劣化するだけでなく安定性が損なわれる問題を解決するため、装置の運動の自由度より多くのアクチュエータを用いて冗長化し、個々のアクチュエータの性能劣化や破損を検出し、正常なアクチュエータのみで異常の生じたアクチュエータの欠損を補い、さらに動的に制御系を再構築することで、全体として元の性能を維持する方法を明らかにすることである。平成23年度には、構築済みの4脚3自由度アクティブ除振台実験装置に対し、新たに4脚の空気圧アクチュエータならびに渦電流式変位センサーを導入し、支持アクチュエータを8脚に増加して配置することにより、高い冗長性を有する8脚3自由度除振台実験装置を構築した。そして、アクチュエータの出力分配法の基礎となる評価関数に改良を施し、各アクチュエータ出力の分配割合を個別に変更可能な出力分配法を構築した。これは本研究課題の目的を達成するための鍵となる重要な成果である。さらに、冗長なアクチュエータのうち複数のアクチュエータが劣化や破損する場合でも、適応的に重み係数を更新する方法で破損アクチュエータへの出力分配割合を0とすることで、破損していないアクチュエータに出力を適切に振分け、装置と制御系全体の除振性能を維持できることをシミュレーションにより示した。これらは本研究課題の目標を達成するために必要となる成果であり、当該年度の研究実施計画は概ね達成された。研究の過程において、これまで一般的に用いられている、バネ-ダンパ-アクチュエータの支持脚モデルを用いると、アクチュエータが劣化や破損した場合の除振台の挙動を正確には表現できないことが分かり、空気圧アクチュエータ-圧力レギュレータ系の詳細なモデルを導入することで問題を解決した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年には鉛直方向変位ならびに2軸の傾斜角の3自由度除振台に対し、アクチュエータ数を8として冗長化した除振台の運動モデルならびに実験装置の構築を完了し、システム同定法によりモデルのパラメータを同定した。また、アクチュエータの出力分配法の基礎となる評価関数に改良を施し、アクチュエータの特性変化に対して適応的に重み係数を更新することで、各アクチュエータ出力の分配割合を個別に変更可能な出力分配法を構築した。構築した運動モデルを用いて、冗長なアクチュエータのうちの複数のアクチュエータの性能が劣化または破損する場合についてシミュレーションを行った。構築した新しい出力分配法により、破損したアクチュエータへの出力の分配を停止し、破損していないアクチュエータのみに出力を分配することで、アクチュエータの性能劣化が生じても装置と制御系全体の除振性能を維持できることをシミュレーションにより実証し、良好な結果が得られた。これまでの成果の一部を日本機械学会の講演会により発表した。また、日本機械学会の全国規模の講演会D&D2012への参加登録を行い、講演を予定している。以上を達成したことにより、平成23年度の研究計画はおおむね達成された。しかしながら、平成23年3月11日の東日本大震災の影響により、実験機材の納入が遅れた(導入を予定していた空気圧アクチュエータのメーカが被災して製造が遅れた)ため、実験装置の構築が当初の計画より遅れることとなり、シミュレーションの結果を実験により検証することは出来なかったため、平成24年度初頭においてシミュレーション結果の実験による検証を行う予定である。以上が、研究の達成度を「おおむね順調に進展している。」と評価した理由である。
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今後の研究の推進方策 |
実験によるシミュレーション結果の検証を平成23年度中に終えられなかったため、平成24年度初頭に遂行する。この検証を平成23年度中に完了出来なかったため、装置の問題点を検証しきれず、実験装置の改良ならびに不具合の改修のために計上していた消耗品費が未消化となり、次年度に使用する研究費が生じた。未消化分の研究費は、平成24年度に行う実験のための実験装置の改良ならびに改修のために使用し、当初の平成24年度分については、使用計画どおりに研究費を使用する計画である。平成23年度に遂行したシミュレーションでは、アクチュエータの劣化や破損は検出できるものとして、動的適応出力分配を適用しているが、実機による実験では、何らかの方法で瞬間的にアクチュエータの破損を検出する必要がある。平成24年度には、急激な変動などに対して優れた特性を有する非線形フィルタ理論を応用することで、センサー情報からの破損アクチュエータ検出法を構築する。次に、全アクチュエータが連動して、瞬間的に最適なアクチュエータの出力分配割合を決定し、システム全体の特性変動を最小限に留めて破損の影響を最小限に抑制する動的適応破損アクチュエータ補完法を構築する。ここでは、シミュレーションならびに実験を活用することで効果的に研究を進める。研究成果の応用として、装置が稼働した状態でアクチュエータを交換する方法(ホットスワップ)への応用を行う。具体的には、交換したいアクチュエータの出力を小さくして行き、アクチュエータの性能劣化が仮想的に進んだものとすることで実現を図る。これについても、シミュレーションならびに実験により効果的に研究を進める。以上の方策により、本研究課題の目標を達成する。申請研究全体について、得られた成果を取りまとめ、学会誌への投稿や国内外の学術講演会での発表により、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のとおり、平成23年3月11日の東日本大震災の影響により、導入を予定していた空気圧アクチュエータのメーカが被災してアクチュエータの製造が遅れたため、実験装置の構築が当初の計画より遅れる結果となり、平成23年度中に予定していたシミュレーションと実験の比較による装置の問題点の検証を完了しきれず、実験装置の改良ならびに不具合の改修のために計上していた機械加工費・消耗品費が未消化となって23年度分の未使用額が生じた。未消化分の研究費は、平成24年度初頭に行う実験装置の検証によって発見される装置の不具合の改良・改修ならびに装置の計測精度などの性能向上のための改良のために使用する計画である。
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