研究課題/領域番号 |
23760204
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高木 賢太郎 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60392007)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 機械力学・制御 / スマート構造 / 振動制御 / 圧電素子 |
研究概要 |
センサとしてもアクチュエータとしても同時に働く圧電素子を単一で利用し,取り付けるだけですぐに動作して調整が不要な制振デバイス(電気電子回路とソフトウェアシステム)を実現することを目的としている.本年度は,圧電アクチュエータの高精度センサレスパラメータ推定と,仮想インピーダンス回路と仮想アドミタンス回路の製作を行った.また,電磁アクチュエータへの適用を目指した. まず,単一の圧電素子をアクチュエータかつセンサとして同時に機能させた際のモデル化と,パラメータを電気的インピーダンスだけから高精度に推定する手法の開発を試みた.オンライン推定が可能な時間領域の推定手法を試みる前に,確認のため従来の周波数領域の手法で計測実験を行ったところ,従来手法では推定ができない場合があることが明らかになった.そのため,新たに電気的損失を考慮した圧電素子のモデル化を行い,周波数領域のパラメータ推定を行ったところ,提案する推定手法を用いたモデルの応答は実験結果によく適合する結果が得られた.提案手法は電気的計測のみに基づくため,センサが不要で任意の圧電素子や圧電構造物に適用ができるという特長をもっている.この成果は国内学会発表にて公表し,学術論文として投稿中である. 続いて,仮想インピーダンスシャント回路と仮想アドミタンスシャント回路を製作した.お互いに似た回路であるが,その働きは逆の関係にある.それぞれの特徴を調査し,圧電素子への制振に適した回路と手法を明らかにすることができた.この成果は国内学会発表にて公表することを予定している. 平行して,電磁アクチュエータによる制振について研究を進めており,新たに安定余裕についての解析の結果を得た.その結果は国内学会発表を行い,国内学術論文に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初の目的は,圧電アクチュエータのオンライン高精度センサレスパラメータ推定と,仮想インピーダンス回路と仮想アドミタンス回路の製作であった. まず,パラメータ推定についてであるが,当初予期しなかった実験結果により新たなモデル化が必要となった.そこで,オンラインではないが,新たなモデルを用いたオフライン高精度パラメータ手法を開発した.そのためオンライン化については次年度の研究課題となったが,パラメータ推定に関する新しい知見が得られている. 続いて,仮想シャント回路の製作についてはおおむね予定通りであり,インピーダンスとアドミタンスの異なる2種類製作した.そしてその相違について検証を加えている.追実験が必要ではあるが,成果の公表に向けて準備を進めている. さらに,次年度予定していた電磁アクチュエータへの適用についても平行して研究を進めており,仮想インピーダンス回路の安定余裕について検討を加えることができた.そのため,予定はおおむね順調に達成されたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
まず,今年度の予定であったパラメータ推定のオンライン化について検討を行う.ここでオンライン化とは時間領域のパラメータ推定であり,従来の周波数領域の方法はそのままでは使うことができないため,新たな手法の開発が必要となる.そして,パラメータ推定のオンライン化によって得られた知見をもとに,セルフチューニングレギュレータに基づいた適応制御則の検討を行う.さらに,対象とする系に適したいくつかの適応制御手法について比較検討を行う.そして,理論的な解析,設計と数値シミュレーションによって効果の検討と確認を行う. 得られたコントローラをDSP(Digital Signal Processor)制御装置にプログラミングして,実験を行う.なお,今年度は適応制御による実験を行わなかったため,DSPの購入を必要とせず,その分の繰越が発生した.次年度では実験を行い,DSPなどを用いて制御効果を確認する予定である.さらに,シャント回路に使用する電子回路についてもドリフト防止などの検討を加える.もし所望の効果や不安定化などの現象がみられた場合には,再度モデルの検証と制御手法の検討を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は制御則を実装した実験を行う予定がなかったためDSPを購入せず,その分の繰越が発生した.そのため,本年度ではその繰越を用いて実験のためにDSPを購入することを予定している.なお,PCを用いた計測制御も考えられるため,DSPの代わりにPCとAD/DAコンバータを購入することも検討している. 次年度の実験において,仮想シャント回路の製作に電子部品の購入や学生アルバイトによる謝金の発生が予想される.また物品にかかる費用として,振動を計測し制振性能を評価するためには高精度なセンサが必要であり,高額ではあるがレーザドップラセンサの購入を予定している.しかしながら,複数の圧電素子を用いてそれ自身をセンサとして用いることも可能であると考えられる.その場合,追加の圧電素子や電子回路部品,PC,シミュレーションソフトウェアといった,より本質的に研究に必要な実験装置に予算を使うこともできるため,レーザドップラセンサの必要性の見直しも含めて検討を行う予定である.
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