研究課題/領域番号 |
23760204
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高木 賢太郎 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (60392007)
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キーワード | 機械力学・制御 / スマート構造 / 振動制御 / 圧電素子 |
研究概要 |
本年度はまず一つ目に,圧電素子に適したシャント回路の実装に関して研究を行った.シャント回路を計算機を用いて仮想的に実現する手法として,仮想アドミタンスに着目した.仮想アドミタンスでは電流制御アンプを用いるため,容量性負荷の駆動においてドリフト等の問題が生じる.従来では仮想アドミタンス回路はフローティングされた圧電素子にのみ適用されてきた.本年度は接地された圧電素子に使用できる回路を作製し,その具体的な回路を示した.さらに電流アンプを用いて容量性負荷を駆動する際に必要となるドリフト補償回路について,その物理的な解釈を等価電気回路を用いて示した.そして,開ループ伝達関数を用いて安定余裕の解析を行うことを提案し,仮想アドミタンス回路を用いて直列LR 回路を模擬した場合の系の特徴について議論した.その結果,仮想アドミタンス回路の場合には安定余裕を確保しやすい特徴をもつ系であることを明らかになった.すなわち,提案する手法によって,任意の動特性をもった回路をソフトウェアによって創り出すことができ,たとえば非線形特性をもったシャント回路回路の実現も可能となる.この成果は国内学会発表を行い,国内論文集に投稿中である. 続いて二つ目として,仮想アドミタンス回路の応用として,従来ほとんど研究されていない非線形特性をもつシャント回路の実現可能性を調査した.とくに,オートパラメトリック吸振器と呼ばれる非線形動吸振器を模擬する手法を提案した.オートパラメトリック吸振器とは振り子式の動吸振器であり,非線形連成によって制振効果が現れる.制振効果は制振対象の固有振動数付近だけで現れるため,吸振器は他の周波数で影響を及ぼさないという利点がある.この新しい非線形シャント制振手法を提案する回路を用いて実装し,実験によって効果を確認した.この成果は国内学会発表を行い,論文投稿のための準備を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では,パラメータのオンライン推定,パラメータ自動調整手法の開発,そしてソフトウェアによって調整可能なシャント回路作製という3つの内容を含んでいた. まず,オフラインのパラメータ推定についてはすでに成果がでており,論文発表をしている.また時間領域のパラメータ推定においても検討を進めており,成果発表を予定している.パラメータの自動調整手法については,パラメータ推定手法と密接に関連するため検討中であり,当初の予定ほどは進行はしていない. しかし,実験のための回路作製においては大きく進展があり,接地型の仮想アドミタンス回路の開発,そしてその回路を用いた場合の系の特徴を明らかにすることができた.さらに,非線形特性をもつ新しいシャント制振への展開をはかり,その効果を実験から明らかにしている.また以上の成果は学会発表によって報告している.シャント回路の開発という点と非線形シャント制振という新たな展開を切り開くことができた. さらに,電場応答性高分子を駆動する回路についての研究も平行して進めている. 以上のことから,おおむね順調に研究が進展している.
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今後の研究の推進方策 |
まず,時間領域のパラメータ推定においても検討を進めており,それをまとめて成果発表のため学会発表,論文などにする予定である.またそれと平行して,パラメータ推定のオンライン化によって得られた知見をもとに,セルフチューニングレギュレータに基づいた適応制御則の検討を行う.さらに,いくつかの適応制御手法について比較検討を行う.そして,理論的な解析,設計と数値シミュレーションによって効果の検討と確認を行う. 得られたコントローラはDSP(Digital Signal Processor)制御装置にプログラミングして,実験を行う.なお,今年度は適応制御による実験を行わなかったため,DSPの購入を必要とせず,その分の繰越が発生した.DSPなどを用いて制御効果を確認する予定である.もしシミュレーションとは結果が異なるなどの場合によっては,再度モデルの検証と制御手法の検討を行う予定である. また,今年度はレーザドップラセンサを購入することは見送った.従来の変位センサを用いても,ノイズは大きいが,計測は可能であることがわかったためである.次年度は電場応答性高分子を用いたシャント制振の可能性を検討する予定であるが,電場応答性高分子の動作原理は従来の材料とは異なり,モデル化やシミュレーションにはソフトウェアが必要であると考えられる.そのため,シミュレーションソフトウェアの購入を検討している.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は新しくDSPを購入しなかったことと,高精度なレーザドップラセンサを購入しなかったため,その分の繰越が発生した.これは従来の変位センサを用いても,ノイズは大きいが,計測は可能であることがわかったためである.次年度は電場応答性高分子を用いたシャント制振の可能性を検討する予定であるが,電場応答性高分子の動作原理は従来の材料とは異なり,モデル化やシミュレーションにはソフトウェアが必要であると考えられる.そのため,シミュレーションソフトウェアの購入を検討している.とくに,材料の構成則をもとに正確なシミュレーションが可能な,有限要素法ソフトウェアを検討している. また,適応制御などの複雑なコントローラを実装する場合には計算コストがかかるため,可能であれば新しいDSPを購入することを予定している.仮想シャント回路の製作に電子部品の購入や学生アルバイトによる謝金の発生が予想される.また物品にかかる費用として,追加の圧電素子や電子回路部品の購入を予定している. 最後に,情報収集と成果報告のための学会参加のための旅費を予定している.
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