研究課題
本研究では音響放射力を用いた小型で高速応答可能な液体レンズを開発し,その光学的性能と応答速度を評価した.レンズは厚み4 mm,径6 mmであり,水,シリコーンオイル,リング型超音波振動子で構成される.水とオイルの界面が音響放射力により高速に変形し,可変焦点レンズとして作用する.レンズ応答をばねー質量ーダンパの一次元振動モデルとして仮定し,その動作速度について理論的に検討した.本理論より,速い応答速度を得るのに最適なオイルの動粘度が存在することを示した.有限要素解析によってレンズ内の音場解析を行った.またレンズ内により強い音圧が発生する様,最適なレンズ形状を決定した.設計に基づいた試作機を作成し,光線追跡によりレンズの透過光分布を計算した.印加電圧の制御によってレンズは可変焦点レンズとして動作し,最速応答時間6.7 msを得た.この値は機械式アクチュエータを用いた従来の可変焦点レンズや他の液体レンズと比較した場合,およそ一桁程度速く,従来では困難であった画面の奥行き方向に高速移動する物体の観測が可能であることを意味する.またレンズをAM信号で駆動することにより,レンズ焦点位置を光軸方向に高速走査し,被写界深度の大きい共焦点画像を撮影可能であることを実験的に証明した.周波数1 kHzで高速走査可能で,例えば通常被写界深度の小さい顕微鏡視野下においても,実時間共焦点撮影が可能となった.またレンズ電極を周方向に分割することにより,レンズを非軸対称に変形し,3次元的に焦点位置を変化可能な可変焦点レンズを作成した.前述の駆動方法と組み合わせることにより,3次元的な広視野・共焦点画像を撮影可能となった.
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した内容をほぼ計画通り順調に達成出来ている.しかしながらレンズ応答の理論式に関しては,当初は応答のみならず,レンズの変形形状までも理論的に明らかにする予定であったものの実現出来ていない.また応答速度については当初の目標値の1 msにわずかに及ばない.
本研究課題で開発した液体レンズについて,今後下記の項目を検討する必要がある.・レンズ応答の高速化:現在の最高応答速度は6.7 msであり,この値は従来の機械式可変焦点レンズのそれと比べて1桁程度速いものの,当初の目標値であった1 msにわずかに及ばない.目標実現のためには,レンズの更なる小型化による最適設計や,オイルの動粘度を最適化する必要がある(今回の実験では理論的最適粘度54 cStのところ,100 cStの既製品オイルを用いた).・ゲルレンズの開発:開発した水・油による2層液体レンズは駆動中にレンズ内部に気泡が発生する場合があり,本レンズの実用化を考えた場合,使用環境温度に依存しない光学的特性が求められる.新たに提案するゲルレンズは,これまでの水・油の代わりに-50~100℃までの温度安定性を有する透明ゲルを用いる.本レンズは量産に適しており幅広い使用環境下に耐え得る.簡素な構造であるため小型化が容易であると思われる.・駆動ドライバの開発と省電力化:小型電子機器等に搭載するためには,レンズ駆動のためのドライバおよびレンズの省電力化が必須となる.現在の開発したレンズの消費電力は数10 mWであるが,今後レンズ全体が効率よく共振する様再設計する必要がある.・その他光学素子への応用:本レンズ技術を応用してマイクロレンズアレイを作製し,CCDや映像機器へ利用する.さらにMEMS技術と組み合わせることにより広い応用範囲を検討する.その他光スキャナ,シリンドリカルレンズ,光学ディヒューザ,血管内内視鏡用ヘッドなど新たな光学素子への応用を検討する.
・物品費として購入を予定していた光線追跡ソフト,および有限要素解析ソフトは,同じ所属研究機関の他の研究室により貸して頂くことが可能であったため購入を見送り,代わりに光学レンズを購入し差額を次年度に繰り越した.・次年度より所属が東京工業大学(横浜)より同志社大学(京都)へ変更となったため,本年度使用していた光コヒーレンストモグラフィを使用するため,上項差額を利用して東京工業大学への出張(京都から横浜)を月1回の頻度で行う予定である.
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