研究課題/領域番号 |
23760241
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
梅津 信二郎 東海大学, 工学部, 助教 (70373032)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | PELID / inkjet / cell |
研究概要 |
難病の克服やドナー不足の解消などを主たる目的として,再生医療・人工臓器などのバイオテクノロジー分野の研究が盛んに行われている.特に京都大学の山中教授らによって作製されたiPS細胞やES細胞は,上記分野のブレークスルーの決定打になると考えられており,現在様々な研究が盛んに行われている.東京大学の中内教授らによって,iPS細胞を利用してマウスの体内にラットの膵臓を作ることに成功したことが先日報告された.この研究成果は,別の動物の体内で人間の臓器を作製できる可能性を示唆したものであり,ドナー不足の解消につながると考えられている.しかし,実際には臓器内部の血管組織や血液が人間と動物では異なるため,移植すると拒絶反応が起こるという決定的な問題を抱えている.また,iPS細胞はガン化しやすいという問題もクリアできていない.このように,バイオ分野では,任意の三次元状の人工臓器を製造する技術は未だ確立されていない.そこで,高粘性な液体を吐出可能な静電インクジェット原理を適用して,生きたままの細胞と細胞の足場となるスキャホールドなどのバイオマテリアルを超精密・高速に配列・積層する三次元細胞造形システムの確立を目指し,研究を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らが独自に開発している静電マイクロドロップ・インジェクションは,市販のインクジェットプリンタよりも高画質で高粘性な液体の吐出が可能であり,細胞を高精度に生きたままプリント可能なことを実証している.また,十分高精度にスキャホールドをプリントできることも実証している.これらの研究成果から,複数の細胞を有する細胞組織をプリントする場合,それぞれの細胞を含む液体を満たしたシリンジとスキャホールドを含む液体を満たしたシリンジをマルチノズル化し,各シリンジの位置と印加電圧を制御することで,作製可能である.細胞は,シリンジ内のメディウムに浮遊した状態であり,通常接着している細胞にとって大きなストレスである.浮遊している時間がより短くなるように,装置を改良する必要がある.現在は,ノズルと下方のメディウムを満たしたディッシュとの間に高電圧を印加することによって発生する静電力のみによって,微小な液滴を吐出している.ノズルの先端に液が溜まり,静電力によって下方に引っ張られることによって,三角錐状のテーラーコーンが形成され,この先端のみがちぎれることによって,液滴が吐出される.後方からの加圧を行うユニットを援用することで,液が溜まり,テーラーコーンが形成されるまでの時間を短縮でき,高速化が可能になるので,装置の改良を行う.
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今後の研究の推進方策 |
ディッシュの一部に熱可逆性のメビオールを塗布した状態で,細胞を一面に播種し,37度にて一日培養すると,メビオールが塗られていない箇所のみ細胞が付着する.メビオールゲル上に細胞が付着しないためである.これを低温にし,PBSを用いて,軽くウォッシュすると,メビオールゲルは液状化し,ディッシュ表面からはがれる.この状態で,別の種類の細胞を播種すると,最初に蒔かれた細胞が付着している箇所はコンフルエントなため,メビオールゲルが付着していた箇所にのみ足場を設け,成長する.この結果は,メビオールゲルを利用することで,細胞を一時的に付着させないことが可能なこと,洗い流した後で細胞毒性がなく,細胞の培養が可能なことを示しており,血管組織を作製するのに応用可能であると考えた.血管組織は,血液が通る空洞,血管内被細胞と平滑筋細胞の二層構造から構成される.空洞を設けつつ,これらの細胞を円柱状にプリントするだけでは,低剛性なため,血管内の空洞を維持できない.そこで,熱可逆性を有するメビオールゲルを空洞部分にプリントし,その周りに上記二種類の細胞をプリントする.これを37度環境下で一日培養し,細胞間の接着を確認した上で,低温環境に移し,メビオールを液状化させることで,空洞を有する血管組織が作製可能である.この血管の出入口にテフロン製のチューブをつなぎ,フィブリンのりでシールし,血清入りのメディウムを流すこと,血管組織として機能するように培養する.この血管組織の周りに他の細胞をパターニングした三次元状細胞組織を作製し,各細胞の生化学特性を調査する.
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次年度の研究費の使用計画 |
空洞を有する三次元状細胞組織を作製するにあたり,メビオールなどの必要な薬品を購入し,各液体の実験条件の最適化を行なう.次に,任意の三次元状細胞組織の作製に挑戦する.また,空洞部分を血管として利用する予定であり,この部分に血液に相当する液体(血清入りのメディウム)を流す予定である.マイクロ流路の技術を援用するにあたり,小型のマイクロ放電加工機を購入し,これにより,必要な穴加工と溝加工を行う予定である.作製したマイクロ流路と三次元細胞組織とをつなぎ合わせ,血清入りのメディウムを流すことによって,三次元状の細胞組織を作製し,長期的に観察可能かどうかを検証する.
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