研究課題/領域番号 |
23760248
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研究機関 | 佐世保工業高等専門学校 |
研究代表者 |
槇田 諭 佐世保工業高等専門学校, 電子制御工学科, 助教 (60580868)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 物体操作 / ロボットハンド / 筋電義手 / ケージング / 物体認識 |
研究概要 |
当該年度には補助事業研究テーマについて,「1.電動義手によるケージング把持の動力学シミュレーション」,「2.ケージング把持のためのリング状物体の特徴点抽出」,「3.表面筋電位解析による手の二動作の識別」の3つをサブテーマとして実施した.テーマ1では動力学シミュレータおよび実機を用いて,義手に適した物体拘束手法を提案するための実験的検討を行い,いくつかの物体に対する拘束手法を提示した.一般に精緻な制御の容易でない義手に対して,力に頼らない拘束手法であるケージングは物体拘束における新たな指針になると期待できる.この成果は次年度の国内会議で発表する.また,さらに多数の把持拘束手法を提案し,その拘束度合いを定量的に評価する枠組みの構築を目指す.テーマ2およびテーマ3はマルチモーダルセンシングによる義手装着者の運動意図推定に関連するものである.テーマ2では筋電図解析による手指の二運動の識別を目指して計測,解析を行い,二運動識別の指標となる値を推定できた.従来,筋電図による運動識別のためには機械学習が必要であったが,この成果によって,学習によらない運動識別が可能になると期待できる.ただし,指標の個人差や経時変化についての考察が不十分であるため,次年度はより多くの被験者について計測を行い,推定した識別指標の精度を検証し,運動意図推定の向上を図る.テーマ3ではカメラ画像から物体を認識し,物体拘束の動作計画につなげるものであり,一つの物体についてはおおよそ認識が可能になっている.今後はその識別精度と位置・姿勢推定精度の向上を図るとともに,他物体の識別にも着手する.本研究ではケージングに着目し,その拘束条件のために必要な形状特徴を認識することを目指しているが,この物体認識手法はほかの把持などの手法に応用可能であると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に設定した3つのサブテーマ「1.電動義手によるケージング把持の動力学シミュレーション」,「2.ケージング把持のためのリング状物体の特徴点抽出」,「3.表面筋電位解析による手の二動作の識別」は当該補助事業の研究計画に基づくものであり,各テーマともおおむね順調に進展しているといえる.特にテーマ1については次年度に予定していた実機実験にまで着手することができ,その成果を国内会議において発表するに至っている.テーマ2およびテーマ3についてはそれぞれ,運動識別の評価指標,物体認識の基本的枠組みはおおよそできているものの,実験による検証結果が不十分である.次年度早期に実験結果をまとめ,国内外での研究発表への到達を目指す.また,実験環境の開発については,当該年度において簡単な動作,制御は可能になっている.次年度も継続して開発を行い,センシングを含めた制御器の構築,動作の安定化,高度化に取り組む.
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今後の研究の推進方策 |
次年度にはまず,前年度までで不十分であった,各手法の実験による検証を進め,この成果を国内外の会議および学術誌において発表することを目指す.これらの実験環境はおおよそ前年度までに整備することができているため,できるだけ早期に実験データの蓄積,解析を進める.次年度初頭に国内発表を行うテーマ「1.電動義手によるケージング把持の動力学シミュレーション」についてはより多くの対象物に対する手法の提示,およびその定量的評価の導出を行い,国際会議や学術誌への投稿を目指している.「2.ケージング把持のためのリング状物体の特徴点抽出」については,カメラによる対象物の物体認識精度の向上,位置・姿勢の特定などの課題の解決に取り組む.特に,ケージングによる物体拘束のために必要な特徴点抽出の提案する手法をより多くの対象物に適用し,その精度や汎化性能を高める.「3.表面筋電位解析による手の二動作の識別」においては前年度までの実験結果から提案する指標の妥当性を検証しているが,データ数が十分ではない.次年度には被験者を増やし,指標に対する個人差の影響を検証すること,および筋電位が筋疲労にどのような影響を受けるか調べることに取り組む.個人差や経時変化に影響されない識別手法が提案できれば,筋電義手の装着しやすさを向上できると考える.さらにテーマ2および3を融合し,義手装着者の物体把持意図推定およびその動作アシストシステムの構築を目指す.具体的には,運動識別から把持動作の意図を推定し,カメラによる物体認識から対象物を判別して把持方策(特にケージング)を提示する.これによって,制御の容易でない筋電義手による把持動作をアシストし,把持操作性の向上を図る.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費が生じた理由として,年度当初に主要な物品として挙げていたロボットハンドの新規購入に至らなかったことを挙げる.このロボットハンドについては,一部を共同研究者より貸与することができたため,新規分の購入がなくても当該研究を進めるために必要な実験環境が整っており,研究遂行上に支障はない.その代わりに本体購入分の予算使途を変更し,実験に関わる消耗品や部品の交換,研究計画の初頭で必要となった実験データの計測環境や解析ソフトウェアの購入を優先した.これらは比較的少額のものが多かったため,残差が生じ,次年度に使用することとなった.次年度は前年度までに不十分であった実験結果の蓄積と解析,検証を進める.これについてはすでに前年度までに実験環境の整備がおおよそできており,消耗品等の購入のみで研究を遂行できるものとみている.次年度の研究費の多くはそれらの成果を国内外の学会や学術誌で発表するための旅費,投稿費などに当てる計画である.また,現在開発中であるロボットハンドの完成に必要なセンサやアクチュエータを整備し,新たな実験に着手することを目指す.
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