本研究では筋電義手の長期利用を目指し,(1)使用者の動作意図推定のための,筋電位を用いた動作識別とカメラによる操作対象物体の認識,(2)義手に適した物体把持手法としてのケージング把持の物体拘束方法の検討,を中心に取り組んだ.「ケージング」とは対象物をロボットで囲い込み,抜け出せないように拘束する手法である.力に頼らない物体拘束であるため,細かな力制御の難しい筋電義手による物体操作に適すると考える. (1)では筋電義手の長期利用のためには,動作の識別,推定に必要なセンサ(および動作のためのアクチュエータ)は少なくすることが望ましいと考え,2つの筋電位センサによる動作の識別と,カメラによるケージング対象物の物体認識に取り組んだ。実験結果では2つの筋電位センサの組み合わせによって4つの手指の状態を識別できることを示した.これによって(2)で述べる低自由度ハンドによる動作を十分に実現できると考える.カメラによる物体認識では一般的に利用されている画像処理ライブラリを利用して,対象物の形状特徴(リング形状)の抽出およびその位置・姿勢の推定を行うアルゴリズムを構築した. (2)では日常生活下で扱う物体のうち,単純形状(球,円柱,角柱など)のものに対して実験的にケージング把持の形態を検討し,動力学シミュレーションおよび実機実験によってその手法の有効性を確認した.これによって人型の5指ハンドによって物体を幾何学的に拘束する手法にはいくつかのパターンが考えられ,そのうち必ずしも各指を独立に制御する必要はないことを示唆する結果が得られた.すなわち,低自由度の(複数指を同時に制御する)ハンドであっても十分な把持性能を発揮できる可能性を示した.これらの把持形態は幾何学的拘束をベースとするため,ハンドの簡単な位置制御のみで実現できることが利点である.
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