研究課題/領域番号 |
23760257
|
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
稲田 亮史 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30345954)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 銀シース / 高温超電導線材 / 交流損失 / 高抵抗バリア / 多芯構造 |
研究概要 |
本研究では,送電ケーブル・変圧器等の交流超電導機器の低損失化に資する銀シース高温超電導線材の損失低減技術の確立に向けて,超電導芯間に高抵抗バリア層を導入した低損失銀シース線材の実現を目的としている。研究計画初年度である平成23年度は,焼成時のビスマス系(Bi2Sr2Ca2Cu3Ox, Bi2223)超電導体の形成への影響が少なく,超電導芯間横断抵抗の向上に有効なSrZrO3(SZO)およびCa2CuO3(CCO)をバリア材とする銀シース線材の通電特性(臨界電流密度Jc)向上に関する研究を推進した。前者のSZOは延性に乏しく,バリア材に使用した際の線材加工性の低下に伴い超電導芯の変形不良や断線,シース材の破損が課題であることが確認され,その克服に向けて,(1)SZOバリア導入厚の低減,(2)線材の加工成型パラメータ,(3)Bi2223相形成のための焼成条件の最適化に注力した。その結果,低損失化の際に必要なツイスト(撚り線)構造を導入していない線材(非ツイスト線材)にて,Jc=25-26kA/cm2(77K,自己磁界下)を得ることができた。このJcは,当研究室で作製したバリアを導入していない銀シース線材と遜色ない値である。一方,後者のCCOをバリア材とした場合,線材加工性の劣化は殆ど見られなかったが,高温焼成後にCCO粒の凝集によるバリア層の連続性低下が確認された。これを解決するため,(1)CCOバリアの導入厚の増加,(2)バリア導入厚の増加に伴う芯部分への酸素拡散低下を考慮しBi2223相形成に必要な焼結時間の延長を試みた。その結果,SZOバリア線材にはおよばないものの,非ツイスト線材においてJc=18kA/cm2を得ることができた。交流磁化法により芯間横断抵抗を評価した結果,SZO/CCOバリア線材共に非バリア線材と比較して一桁以上の高横断抵抗化が実現できていることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,実際の低損失線材の基本構造となる超電導芯をツイスト(撚り線)構造化した銀シースバリア線材の高臨界電流密度化と超電導芯間抵抗の向上に関する実験的検証を平成23年度に実施することを予定していた。実際は,非ツイストバリア線材における高臨界電流密度化と高横断抵抗化(非バリア線材と比較して一桁以上)の双方を実証することには成功したが,非ツイストバリア線材での臨界電流密度向上のための線材作製条件の適正化に予想以上の時間を要してしまった。このため,ツイスト構造と複合化したバリア線材での通電特性向上に向けた検討が十分にできておらず,研究の進捗は当初計画より若干遅れている状況にある。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,第一に前年度実施に至らなかったツイスト構造を有するバリア線材の高臨界電流密度化に向けた線材作製プロセス(線材加工条件,焼成条件)の最適化に注力する。次に,作製したツイスト-バリア線材において,交流電磁特性の系統的な評価を実施する。銀シース線材は断面アスペクト比が10~20程度のテープ形状を有するため,線材に対する交流外部磁界の印加方向に伴い交流損失特性も異方的な振る舞いを示す。特に,最も損失低減が困難とされている,商用周波数域・線材幅広面に垂直な横磁界下での損失低減効果の検証と,その機構の解明を進める予定である。研究最終年度となる平成25年度は,前年度の研究成果を基盤として,低損失化と高臨界電流密度化の双方を実現し得るバリア線材の構造設計~開発に至る各段階での指針を明確にすると同時に,メートル級低損失バリア線材の作製と均質性評価に取り組み,将来的に必要となるバリア線材の長尺化への適用可能性を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費は,線材原料(無機粉末,銀パイプ,有機溶剤),線材焼成時に使用する不活性ガス類や熱電対等の電気炉付属品,電磁特性計測に必要となる電子部品等,銀シース線材の作製・特性評価の際に定常的に必要となる消耗品類,研究成果発表を行うための論文投稿費,学会出張旅費および参加登録費,更には学内の分析機器(X線回折装置,走査電子顕微鏡,等)の使用料金に充当する計画である。
|