研究課題/領域番号 |
23760262
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
富田 健太郎 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (70452729)
|
キーワード | ガス遮断器 / トムソン散乱法 / 電子密度 / アーク放電 / 電流ゼロ点 |
研究概要 |
電力の送配電では系統事故時に事故電流が流れるが、この事故電流を瞬時に遮断して系統に繋がれている機器を保護するために、電力用遮断器が用いられる。70kVを超えるような高い電圧では、SF6ガスを用いたSF6ガス遮断器が一般に用いられている。しかし、SF6ガスは温暖化係数がCO2の約24000倍と高い値を示しているので、環境負荷低減の観点から、SF6の代替ガスの模索が急務であり、そのための研究が盛んに行われている。ガス遮断器では事故電流を遮断する際、電極を機械的に切り離すが、この時に大電流アークが電極間に発生する。遮断の成否は、電流遮断時のアークのプラズマパラメータ、特に電子密度に強く依存すると言われているが、その直接測定は極めて困難であり、このことが代替ガス模索の大きな障害となっている。本研究ではこのような現状に対し、レーザートムソン散乱による電流ゼロ点近傍アークの電子密度や電子温度の実計測法の確立を目指している。これまでに対向電極間で発生させた電圧6kV、電流600A、時定数25μ秒の小規模アーク放電に対して、トムソン散乱法を適用し、その電子密度、電子温度の時間空間的変化を詳細にとらえてきた。遮断器内アークにはノズルの高分子材料や電極接点の金属蒸気(主に銅)が混入し、プラズマ状態を大きく変えてしまうことが知られている。そこで、電極にPTFEチューブを付与した場合や、電極をタングステンや銅タングステンに変更した場合のアーク状態の時間空間変化を明らかにした。これまでに、金属蒸気や高分子材料の混入により、アーク状態が時間空間的に著しく変化することを、電子密度や電子温度といった定量的な数値を用いて示すことができている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、アーク発生のための電気回路および真空容器の構築を行い、二酸化炭素や窒素を充填するためのガス充填設備の構築を行った。さらに、アーク放電の電子密度や電子温度を測定するための、トムソン散乱計測システムの構築を行った。さらに、アーク、計測用レーザー、検出器の同期をナノ秒オーダーで制御可能とした。これらの結果、当初の目標の一つであったアーク減衰過程へのトムソン散乱法の適用を達成した。さらに、もう一つの目標であった、金属蒸気や高分子蒸気混入の影響や、ガス(二酸化炭素、窒素)を変更した時の影響を、アーク発光の様子だけでなく、電子密度や電子温度といった定量値で比較することに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
遮断器ないでは、高圧のガス流をアークに吹きつけることで、アークの急激な減衰を達成している。また、アークは長ギャップ電極間で生成され、さらに消弧室内壁の影響を強く受けることが知られている。これらの条件を加味したアークに対してトムソン散乱計測を行い、それぞれの条件が、アーク状態に及ぼす影響を定量的に把握することが必要となる。電極間隔の長ギャップ化は、最初は接触した電極を、電気制御可能なソレノイド弁を使用するなどして、50mm程度の長さのアークを安定して発生するようにする。また、アークをPTFEなどの高分子材料の中で生成することで、消弧室内壁を模擬する。ガス吹付けに関しては、高分子材料の形状を工夫することで、電極間に効果的にガスを吹き付けられるよう工夫する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ガス吹付けアークを発生させるために、充填ガスを購入する必要がある。また、トムソン散乱計測を行うための、計測レーザーのフラッシュランプや、レーザー光路上のミラーを追加購入する必要がある(経時劣化のため)。さらに、ガス吹付けノズルの作成、消弧室内壁を模擬した高分子材料の作製や、電極移動のための電磁弁開閉装置の開発等の費用が必要である。
|