研究課題/領域番号 |
23760263
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
東川 甲平 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 助教 (40599651)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 高温超伝導線材 / 臨界電流密度分布 / 局所不均一性 / 非破壊評価 / 走査型ホール素子顕微鏡 |
研究概要 |
本研究の目的は、次世代高温超伝導線材の電力機器応用へのキーテクノロジーとなる高速・高分解能・非破壊の標準的評価システムの開発である。電流容量と交流損失の観点から極めて高いポテンシャルを有する本線材に残された課題は、超伝導特性の均一性(例えば分解能1 mm以下)を工業生産レベルの長さ(例えば1 km)にわたって確保することであり、非破壊かつ高分解能の評価手法の開発が急務となっている。本研究では、申請者等が短い線材を用いて既に原理検証を終えている外部磁界印加型走査型ホール素子顕微法を発展させ、これまでの300倍の評価速度の達成を目指し、解像度1 mm、評価速度100 m/hで非破壊に局所臨界電流密度分布のイメージングが可能となるシステムの構築を目指している。 本年度は、以下の成果により、世界で初めて長尺高温超伝導線材の面内臨界電流密度分布評価システムの開発に成功した。・リール式長尺線材搬送機構に、リニアステージからなるホール素子高速走査機構を導入した。本走査機構は、線材幅方向に対して1秒間に10往復可能な走査速度を有し、これは従来の100倍の速度に対応する。この状態で線材を長手方向に搬送させることで、高速で線材面内に対する2次元イメージングを行うことが可能となった。・上記高速走査においても従来と同様の低ノイズ信号が得られるよう、ロックインアンプを用いた信号の取得方式を導入した。従来ではノイズの低減を平均化処理によって行っていたが、上記の方式に変更することによって有効データあたりのサンプリング数を1000分の1まで低減することに成功した。その結果、上記のような高速走査計測においても、高品質な信号をリアルタイムで保存可能なデータ量として扱うことが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、数十mm長の短尺の高温超伝導線材に対してやっと適用可能であった評価技術を、工業生産レベルの長さ(例えば1 km長)の長尺線材に対して適用可能なシステムに発展させ、さらにその評価に耐え得る評価速度を達成することを目的とするものである。当初の予定通り、初年度にして長尺線評価システムとしては既に形になっており、評価速度も単チャンネルのホール素子を用いた場合の限界まで達成している。具体的には、線材長手方向の解像度を1 mm、幅方向の解像度を40ミクロンとした際に、36 m/hの評価速度を達成している。これは、従来の100倍の評価速度であり、最終目標の100 m/hを十分に見越せるところまで研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終目標としている100 m/hという評価速度は、今後見込まれる線材の製造速度に対応するように設定しているものである。本目標の達成には、さらに3倍の計測速度の高速化が必要となり、これが次年度の主な研究課題となる。そこで次年度では、ホール素子を多チャンネル化することにより、上記目標の達成を目指す。具体的には、3チャンネル分の信号の取得と処理を行えるシステムの構築を目指す。本検討によって多チャンネル計測技術を確立することができれば、チャンネル数に応じて評価速度の高速化が見越せる基盤技術となる。また、現在のところ、取得した磁気信号から超伝導特性を示す臨界電流密度に変換する計算処理は、全計測終了後にまとめて行っている。そこで次年度では、本計算処理をリアルタイムで行うアルゴリズムを開発し、工業生産において即座にスクリーニングすることが可能な標準的評価システムとしての可能性も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在の計測システムを多チャンネル(3チャンネル)化するためは、多チャンネルのホール素子とチャンネル数分のロックインアンプが必要となる。ホール素子は既に購入済みであるが、ロックインアンプの追加分の購入費(2台:計996千円)、電子計測部品費(100千円)を計上する。また、計測の際に必要な液体窒素購入費(2000リットル:計100千円)を計上する。さらに、臨界電流密度分布のリアルタイム解析に必要となる比較的高性能な計算機の購入費(300千円)を見込んでいる。 また、得られた成果の発表のため、成果発表旅費(米国1回、国内3回:計490千円)を計上する。 その他として、学会参加費(米国1回、国内3回:90千円)、論文投稿料(60千円)、通信費(9千円)を計上する。
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