研究課題/領域番号 |
23760265
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
王 斗艶 熊本大学, 大学院先導機構, 特任助教 (30508651)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 水中パルス放電 / 放電プラズマ / 遺伝子転写活性 |
研究概要 |
水中パルス放電は、放電プラズマより生成される化学的活性種、放電発光に含まれる紫外線、放電路の加熱膨張に伴う衝撃波、放電路先端における超高電界、及び電極間における大電流などの発生を伴い、これらの高エネルギー密度現象を複合要素として発生する。一方、スサビノリは養殖海苔の代表的な品種として日本各地で養殖されており、葉緑体ゲノムの解読および発現配列タグの解読が終了し、実験室での培養が容易であるため大型海藻のモデル植物として使用されている。申請者はこれまでに水中パルス放電によりスサビノリの内生変異体作成に寄与する遺伝子の活性に成功しており、本研究ではそれぞれの単一ストレスがスサビノリ遺伝子に対する影響を調査し、活性メカニズムを解明する。 平成23年度は、化学的活性種・パルス高電界・大電流を其々スサビノリへ印加し、遺伝子活性レベルの評価を実施した。化学的活性種としてオゾンと過酸化水素にフォーカスし、其々のストレスをスサビノリへ印加した結果、オゾンはある印加時間をピークにPyRE1G1遺伝子の転写活性化がみられ、さらに長時間晒すと転写レベルが減少した。一方、放電生成される程度の濃度を有する過酸化水素については、遺伝子の転写活性は見られなかった。パルス高電界については、5 kV/cmの場合においてのみPyRE1G1遺伝子が転写活性化し、電界強度が高くなるにつれてその活性レベルが次第に減少した。また、パルス大電流においては、電流値が大きくなるほどPyRE1G1遺伝子転写活性レベルが上昇した。 放電プラズマの生体応用研究が広がるなか、近年は日本国政府も該当分野を重要視するなど、その研究価値は高い。多くが動物細胞や菌類を対象としている中で、本研究は植物体を取上げており、注目度は高い。また、複合物理特性を有するストレス源のメカニズム解明は、他の生体応用研究にとっても存在価値の高い研究課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画は、水中パルス放電に伴う単一物理現象のうち、化学的活性種・パルス高電界・大電流を其々スサビノリへ印加し、遺伝子活性レベルについて評価することである。 化学的活性種としては、水中放電プラズマで生成される化学的活性種に占める割合が高くかつ強力な酸化力を持つオゾンと、寿命が長く水中への拡散度も大きい過酸化水素を取上げた。前者について、オゾンガス発生装置(現有設備)より発生したオゾンを、スサビノリを入れた培地へバブリングすることで実施した結果、バブリング時間を長くするにしたがってPyRE1G1遺伝子転写レベルが高くなり、8分間でピークに達した。しかし、バブリング時間が10分間になると転写レベルが減少し始めた。また、後者については、水中パルス放電(電圧ピーク値40 kV、パルス幅200 ns、20パルス)で生成される過酸化水素濃度が1μM程度であることから、この濃度に調整した過酸化水素水溶液へスサビノリを晒した結果、PyRE1G1遺伝子転写活性は見られなかった。 次に、パルス高電界を発生させるために、平行平板型電極間へスサビノリを設置し高電圧を印加した結果、電界強度5~45kV/cmの範囲においては、5kV/cmの場合においてのみPyRE1G1遺伝子が転写活性化し、電界強度が高くなるにつれてその活性レベルが次第に減少してた。 最後に、パルス大電流を発生させるために、海水で満たした平行平板電極チャンバー内にスサビノリを設置し、電極間へパルス電圧を印加した結果、1000Aまでの大電流を得ることができ、この時のPyRE1G1遺伝子転写活性レベルは、電流値が大きくなるほど上昇した。 以上より、水中パルス放電に伴う単一物理現象のうち3項目に関するスサビノリの遺伝子発現特性を研究するという当初の目的は達成された。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、前年度に引き続き水中パルス放電に伴う単一物理現象に対するスサビノリの遺伝子活性評価を行い、研究全体の総括を行う。スサビノリへ印加する単一ストレスとしては、衝撃波および紫外線とする。 水中放電に伴って発生する衝撃波は数百MPaにも達し、さらにその衝撃波に伴いラジカルも生成される。従って、パルス放電生成衝撃波を評価することは不可欠である。本研究では、パルスアーク放電を発生させることで放電生成衝撃波をスサビノリへ印加する。この時、衝撃波以外の物理要素を遮蔽するために、スサビノリ容器の開口部を薄い絶縁膜で覆うこととする。一方、水中放電に伴い発生する紫外線は、放電ストリーマより離れるほど減衰し、紫外線そのものが水分により激しく減衰することが報告されている。従って、本研究ではまず水中放電生成紫外線の物性評価を行い、その同程度の線量から高線量までの紫外線をスサビノリへ照射し、遺伝子活性レベルを評価する。 これまでの結果を総括することにより、水中パルス放電というストレス源に対するスサビノリの応答特性を評価するとともに、放電プラズマが植物遺伝子に対する内生変異体以外のストレス応答機構への寄与も調査する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費使用目的としては、主に消耗品と謝金等へ充てる予定である。消耗品は電源構築のための材料費、電気部品購入費、スサビノリの培養用試薬および消耗品、遺伝子解析のための試薬および消耗品などを計画しております。また、謝金については、生物分野の知識を有する技術補助者を雇用するための費用を計画しております。これは、スサビノリの培養ならびに解析作業に多大の時間を要するため、技術支援者が必要不可欠であることと、昨年度までその雇用に充てていた他の予算が終了したため、平成24年度の謝金を執行予定である。
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