研究課題/領域番号 |
23760271
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
高橋 康人 同志社大学, 理工学部, 助教 (90434290)
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キーワード | 電気機器 / ヒステリシス / 磁気異方性 / 並列計算 / PWMインバータ |
研究概要 |
昨年度は,回転機の定常機器特性の高速な算出を目的として時間領域での並列計算手法である並列化時間周有限要素法を新たに開発したが,本成果について学会発表を行った際に,当該分野の研究者から本開発手法のさらなる高度化の可能性について指摘されていた.そこで本年度は,過渡現象解析にも適用できるよう定式化を見直すとともに,特に膨大な計算時間が必要である誘導機解析において回転子において成立する多相交流時間周期境界条件を定式化に導入した.その結果,計算コストの大幅な削減および開発手法の適用範囲を拡大することができ,さらなる実用性向上を達成した. 一方,本年度は電気機器を構成する磁気回路の主要部材である電磁鋼板の有する磁気ヒステリシス特定および磁気異方性のモデリング手法についても検討を行った.磁気ヒステリシス特性については,数学モデルに基づくマクロスケールモデルを採用しているため物理現象の精確な再現には限界があるが,直流重畳下やPWM励磁下などにおいてもヒステリシスループの実測結果を十分表現可能な精度を有することを明らかにし,ヒステリシス特性を考慮した場合の定常解高速求解法の開発も行った.また,磁気異方性モデリングについては,モデル構築に必要な測定データの取得容易性および磁界解析における計算コストを考慮し,一元的な磁気特性評価に基づく磁気エネルギーを用いた二次元磁気特性モデリング法を開発した. 上記の研究成果については国際会議などで発表するとともに,論文が当該分野の代表的学術誌へ掲載されるなど,国内外で高く評価されている.これらの手法の活用により,高効率電気機器の開発に要する時間の短縮化が達成されるとともに,電磁鋼板の複雑な磁気特性の高精度な再現が可能となることで詳細な機器特性把握が可能になると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実用的な磁気特性モデリング手法の開発という本年度の目標に対し,計算精度・計算時間だけでなく,測定装置の構築の簡便さやモデルの同定に必要な測定データの取得容易さ,モデルの汎用性などの観点から検討を行った結果,基礎的なモデルにおいてその有用性を明らかにした.さらには,これまでに開発した時間領域での並列有限要素法に対して昨年度後半に得られた知見を活かすことで,計算コストを削減し適用範囲を拡大した時間領域並列化有限要素法に拡張した.以上から,本年度の目標をおおむね達成できているとともに,昨年度の開発手法の実用性のさらなる向上に至っており,順調に研究を遂行できたと考えられる. 一方,本年度実施予定であったマイクロマグネティックス計算についてはMPIによる分散並列化までは実施しているが,ハイブリッド並列化やGPUへの実装には至っておらず,マイクロマグネティックスに基づく磁気特性モデル化手法の開発では限定的な成果しか上げることができておらず,次年度に引き続き検討を進める予定である.しかしながら,比較対象として検討したマクロスケールモデルについて高度化を検討した結果,先述のように計算コスト,計算精度,モデル同定の容易さの観点から十分実用的であることを明らかにできており,当初の研究計画通りではない部分も多少あるが,本研究課題の目標に対しては非常に有意義な結果を得ることができていると考えている. 研究設備に関しては,ソフトウェア・ハードウェアの両面において,最終年度に向けて必要なものは準備が完了している. 研究期間後半の重点課題である国内外の学会参加による研究成果の発信についても,本年度は昨年度以上の件数を発表することができており,研究計画通りに遂行できていると考えている.研究期間最終年度にあたる来年度も,研究成果の発信に関しては引き続き重点的に取り組む予定である.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,これまでの開発手法の実機解析における有用性検証が目的である.まず,磁気特性モデル化手法については,最近,マイクロマグネティックスに基づくGrain Magnetics(GM)モデル(単磁区の結晶粒モデル)が提案され,電磁鋼板のヒステリシス特性を再現可能であることが報告されている.マイクロマグネティックス計算のハイブリッド並列化やGPUへの実装については引き続き検討するとともに,簡単なベンチマークモデルを作製し,2012度に検討したマクロスケールモデルや,マイクロマグネティックスのようなミクロスケールモデル,GMモデルのような中間スケールモデルの得失比較を行いながら,磁気特性モデリング手法の実用化に向けた検討を行う予定である. 一方,磁界解析においてヒステリシス特性を直接的に考慮すると,計算コストが2倍程度に増加し,実装自体も容易ではない.そこで,磁界解析は従来通り磁化曲線を用いて行い,鉄損を算定する後処理においてのみヒステリシス特性を考慮した鉄損計算法についても検討する予定である.本手法は,ヒステリシスループを直接的に扱うことで鉄損評価の高精度化が期待できるうえに,従来の磁界解析と比較して解析全体の計算コストはほぼ等しく,また実装が容易である特長も有する. 時間領域並列化有限要素法については,インバータ駆動誘導電動機の損失解析に適用し,その有用性を検証する.また,研究期間後半の重点課題である研究成果の対外発表については,国内外の学会において適宜を行っていく予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
電磁界数値解析に関する国際会議COMPUMAG2013のための参加費等,研究期間後半の1つの大きな柱である研究成果の発信に対し重点的に予算を配分(当初計画:350,000円)している.また,磁気ヒステリシス特性モデリングのための情報収集をより広範に行うため,さらに旅費を上積み(+50,000円)する予定である. 2013年度は本研究課題の最終年度であるため,実機解析における開発手法の有用性検証を行う予定である.その際,回転機実機における測定結果との比較は必須であるため,汎用インバータや3相誘導電動機といった実験用器材を物品費として予定している.また,並列計算環境の保守・整備のために,スイッチングハブ,ルータ,LANケーブルなどの計算機関連消耗品が必要と考えられ,これらへの支出も予定している.物品費は,当初計画150,000円から旅費への充当分を差し引き,100,000円とする.
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