研究課題/領域番号 |
23760276
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
櫻井 岳暁 筑波大学, 数理物質系, 講師 (00344870)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / 放射光 / 量子ビーム / エネルギー損失 / 界面電荷移動 |
研究概要 |
(1)鉛フタロシアニン薄膜のエネルギー損失過程の観測 単斜晶、三斜晶を作り分けた鉛フタロシアニン薄膜太陽電池のデバイス特性を計測すると、三斜晶構造の試料を用いた方が変換効率が60%ほど高いことを確認した。一方、これらの薄膜の蛍光寿命は170~220ピコ秒と寿命の変化が確認されなかった。ただし、低温に冷却すると蛍光強度は三斜晶の方が劇的に大きくなる。これより、鉛フタロシアニン薄膜におけるエネルギー失活のメカニズムは単斜晶と三斜晶で異なり、太陽電池特性に影響を及ぼすことが予想される。続いて、鉛フタロシアニン薄膜のエネルギー失活メカニズムを検証するため、XAFS法を用いた解析に着手した。まず、連続放射光源を用いたXAFS解析より、動径構造関数がフタロシアニンの分子構造と対応することを確認した。続いて全反射条件で入射光を試料に照射し蛍光XAFSの測定を行うと、膜厚5 nmと極めて薄いフタロシアニン薄膜でも信号検出も行えることを確認した。今後、さらにXAFS解析を高精度化し、光学遷移と対応する構造遷移過程を捉えることを目指す。(2)有機薄膜太陽電池界面の共鳴オージェ電子分光 有機薄膜太陽電池の特性に多大な影響を及ぼす有機/金属界面の電荷移動ダイナミクスの検出に共鳴オージェ電子分光を用いた。まず、カルバゾール構造異性体における有機/金属間相互作用をXPS, NEXAFSにより検出した。カルバゾール構造異性体では構成元素が同一にもかかわらず界面相互作用が劇的に変化し、これにより界面電気二重層の大きさが0.7 eVも変化することを確認した。相互作用を支配する因子としては分子の共鳴安定構造と立体因子が挙げられる。一方、これらの系に共鳴オージェ電子分光を観測したところ、オーム性接触の実現する系で非常に速い(10 fs未満)電荷移動信号を検出した。今後、電荷移動速度のデバイス特性への影響を探る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)鉛フタロシアニン薄膜のエネルギー損失過程の観測に関しては、研究計画通り進行している。動径構造関数がフタロシアニンの分子構造と対応することを確認した点と、膜厚5 nmと極めて薄いフタロシアニン薄膜でも信号検出も行えることを確認した点は、XAFS解析が有機薄膜太陽電池の解析にも十分適用可能なことを示した結果と言える。ただ、目標とする構造遷移過程を捉えるには、さらなるブレイクスルーが必要である。次年度以降より精密なXAFS解析に着手したい。(2)有機薄膜太陽電池界面の共鳴オージェ電子分光に関しては、研究計画を超える成果が得られている。特に、10fs未満の時間スケールの極めて速い電荷移動現象を捉えることに成功し、有機/金属界面の電荷注入効率等、デバイス物理の解明に寄与する知見が得られた点は意義がある。今後、この測定法の有機薄膜太陽電池への適用をさらに進め、有機/金属界面の詳細な物性解析、有機/有機界面でのエネルギー損失機構の解明に応用していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
(1)鉛フタロシアニン薄膜のエネルギー損失過程の観測に関しては、蛍光寿命の励起波長依存性を取り、分子の励起状態への励起効率を確認する。続いて、上記の結果を参照し光照射時のXAFS測定を観測し、光照射時の中心金属周りの構造変遷について確認する。また時間経過によるXAFS信号変化の計測も予定している。(2)有機薄膜太陽電池界面の共鳴オージェ電子分光に関しては、有機/金属界面での電荷移動メカニズム、ならびにキャリア注入効率に関する詳細な物理機構を構築する。これにより、有機薄膜太陽電池の電極界面でのデバイス物理をより明瞭なものにしていく。また、上記の結果を応用し、有機/有機界面の電荷移動速度の計測に応用していくことを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
蛍光寿命の励起波長依存性は、分子の励起効率の観測ならびにXAFS測定に不可欠である。このため、この測定に不可欠な分光器を平成24年3月下旬に納品した(4月に支払いとしたため、報告書上次年度使用額に含まれている)。平成24年度は、この分光器の光ファイバー結合システムの設置に不可欠な分光器設置ラック(15万円)を購入する。また、研究成果の海外での発表旅費に30万円ほど使用する。残りは有機材料等の消耗品に6万円ほど使用する。
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