研究概要 |
(1)有機薄膜太陽電池電極緩衝層の電子物性計測 高効率な有機薄膜太陽電池に不可欠なBathocuproine(BCP)緩衝層の役割について調査した結果、アクセプタC60/緩衝層BCP界面のエネルギー準位接続が、金属電極に影響を受けることを明らかにした。具体的に、Ag電極の電子がBCP緩衝層のLUMO準位に移動(電子ドープ)すると、BCPの有する化学ポテンシャル(フェルミ準位)がHOMO-LUMOギャップ中央近傍からLUMO準位近傍にシフトし、隣接するC60のLUMO準位とBCPのLUMO準位でエネルギー障壁が非常に小さくなる現象を見出した。また、電子をドープしたBCP緩衝層は、金属的な電子物性を示しつつC60層との界面でオーム性接触をとり、かつ金属電極を直接C60層上に形成した場合と比べ励起子失活が抑制されることから、光電変換過程でエネルギー損失を低減し有効に働くことを明らかにした。さらに、耐久性に乏しいBCP緩衝層に替わる新材料の候補として、窒素、酸素など、電気陰性度の高い元素を二重結合に組み込んだ有機半導体分子が有用であることを示した。 (2)有機薄膜太陽電池界面のCore-Hole Clock分光 有機薄膜太陽電池の特性に多大な影響を及ぼす有機/金属界面の電荷移動ダイナミクスの検出を、Core-Hole Clock分光により行った。前年度までに相互作用を計測済みの、カルバゾール構造異性体/金属(Ag,Mg,Au)界面におけるCore-Hole Clock分光を観測したところ、金属電極/有機分子間の相互作用というより、むしろオーム性接触の実現する系で非常に速い(10 fs未満)電荷移動信号を検出した。なおオーム性接触の起こる系では、金属から分子に効果的な電子ドープが起こっていた。よって、電極界面でのドープ状態の制御が、太陽電池の高効率化の鍵となることが明らかになった。
|