研究課題/領域番号 |
23760277
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松井 裕章 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (80397752)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナノ構造体 / 酸化物半導体 / 近接場光 / 表面プラズモン / 光エネルギー伝達 |
研究概要 |
平成23年度は、金属伝導酸化物ナノ粒子を用いて近赤外域における発光増強を目指した。1021 cm-3程度の電子密度を有するIn2O3: Snナノ粒子の局在表面プラズモンに伴う電場増強を利用し、ZnO内に添加したEr3+イオン(発光中心)からの近赤外光の増強に成功した。高電子密度を有するIn2O3:Snナノ粒子は、近赤外領域において、粒子内の自由電子によるコヒ―レント振動が生じ、粒子表面にプラズモン効果が誘起される。このプラズモン励起は金属ナノ粒子の局在表面プラズモン励起のメカニズムで説明でき、電子密度が金属と比較し、1桁程度小さいためプラズマ周波数が近赤外域にシフトする。酸化物ナノ粒子のプラズモン共鳴は、理論的及び実験的考察から検証され、単一ナノ粒子に起因するプラズモン共鳴効果であることを確認した。一方、近赤外の発光は、Er3+の希土類イオンを用いて、1560 nmの光放出を示す発光層(ZnO: Er3+)をパルスレーザー堆積法により作製した。発光増強の検証として、ZnO:Er3+の発光層の直上に金属伝導酸化物ナノ粒子をスピンコーティング法を用いて積層させたヘテロ構造体を用いた(透過電子顕微鏡により同定)。発光分光は、He-Cdレーザー(325 nm)を用いて、発光層を励起させ、InGaAs検出器により計測した。金属伝導酸化物ナノ粒子のある領域と無い領域の分光比較を行うことで発光増強を確認にした。一般的に、単一ナノ粒子における電場増強は小さいが、ナノ粒子が集密化することで、粒子界面において極めて強い電場増強が発現する。本研究で観測された発光増強は、この粒子界面で機能する近接場増強が関与していることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、金属・半導体ヘテロ構造における光エネルギー移動のメカニズムの解明を主眼とする。故に、金属と半導体層から成るヘテロ構造体の形成、及び光増強効果の観測が最初の研究段階となる。ナノ構造体表面上に誘起される局在表面プラズモンの光学的性質は、理論的・実験的考察から解明され、粒子表面上に誘起される電場増強は、電子密度と強く関連する。Mie理論に基づいた計算された電場増強度は約4倍程度であり、銀ナノ粒子の4分の一程度に留まる。しかし、ナノ粒子を集密化させた場合、粒子同士が接触し、その結果として粒子界面に強い電場増強が出現する。この近接場効果が近赤外域における発光増強に寄与したと思われる。近赤外域における光学応用は極めて重要であり、この光学帯域における光学増強は重要である。研究実績報告書から、ヘテロ構造体の作製や、発光増強の観測が達成され、メカニズムの解明に繋がる初年度研究成果として十分に達成した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の2点に集約して研究を実施する。最初は、初年度に観測された近赤外発光増強の起源解明を行う。近赤外域における時間分解分光法を適用し、発光ダイナミクスを計測し、プラズモンとフォトンとの光結合の相互作用を解明する。発光層からの光エネルギーを金属層へエネルギー伝達する仕組みを明らかにする。一方、金属層から半導体層へ光エネルギー輸送に関する研究も同時に展開する。光電変換や受光デバイスの効率向上に向けて、金属ナノ構造表面上の電界増強を活用する。この場合、金属ナノ構造表面上に外部光のエネルギーを局所的に集中・増幅させる(光アンテナ現象)メカニズムの明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用は、主に金属ナノ構造の加工を実施すべく、ナノインプリント用のモールド形成や、電子線リソグラフィー加工の使用料等に捻出する。特に、光電変換や受光デバイス等の光電機能とプラズモンとの融合の研究に対して、研究費を使用する。分光測定等の機器類に関する使用は予定していない。また、国内会議の出張、及び国際誌への論文投稿費用に使用する。
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