研究課題/領域番号 |
23760278
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大野 玲 東京工業大学, 像情報工学研究所, 准教授 (70397058)
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キーワード | 有機半導体 / マーカス理論 / ディスオーダーモデル / ホッピング伝導 / 有機トランジスタ |
研究概要 |
これまで、分子軌道法における第一原理密度汎関数計算に基づき、Phenylnaphthalene、 Terthiophene, BTBT及びその誘導体について、モデル分子ごとに計算した、トランスファー積分、永久双極子、異方的な誘電率、それに伴う分極エネルギー及びエネルギーのディスオーダーを計算する手法を確立し、以上に基づく電荷輸送モデルを構築してきた。このとき、電荷輸送モデルを有機トランジスタ構造に応用して、デバイス上での電荷輸送モデルの構築を行っている。 トラップなど電荷輸送における外因的なものを取り去った理想的な条件の元、ゲート絶縁膜上でのチャネルの電荷輸送は、ゲート絶縁膜中、及び界面の永久双極子モーメントによるディスオーダーに大きな影響を受ける。また分極率の、異方性によるエネルギーのディスオーダーの増大やポーラロンの形成が起こり、このことがチャネルの電荷輸送機構そのものを変化させることがわかった。絶縁膜について配向秩序パラメータを変数として、キャリア-双極子、キャリア-分子分極相互作用がチャネルの電荷輸送に分極エネルギー、及びエネルギーのディスオーダーとして影響を与えるかを定量的に見積もる計算手法を開発した。この理論計算によると、絶縁膜高分子1セグメントあたりに、1deby 程度の双極子を有する場合、数十~百数十meVの活性化エネルギーを、チャネルの輸送部位に付与することが分った。一方でこの効果は絶縁膜界面とチャネル分子の電荷輸送部位までの距離に指数関数的に依存しており、チャネルの有機半導体分子における輸送部位と、絶縁膜界面との距離を、アルキル鎖の長さ等、分子レベルで設計し最適化することで有機トランジスタの動作を制御することが出来ることが分った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度においては、これまでの異方性のある分子における、有機半導体の電荷輸送論に基づき、実用・応用の面から、デバイスシミュレーションの構築を進めた。しかし、研究を進めていくにつれ、デバイス構造中で、電極界面・ゲート絶縁膜界面などのトラップ等の電荷輸送において外因的なものではなく、絶縁膜側に起因するエネルギーのディスオーダー等の寄与が大きくなったために、トラップではない電荷輸送にかかわる準位の分布広がりが大きく変化したり、分極エネルギーが増大したりすることで、ポーラロンエネルギーが増大するなど、内因的電荷輸送機構そのものが大きく変化することが分かって来た。 そのため、モデル有機半導体ばかりでなく、絶縁膜分子の双極子モーメント、誘電分極等を量子化学計算を用いて各物性値計算を行ったうえで、デバイス界面での条件を導入したデバイスモデルを、設計段階から再検討することになった。一方で、ゲート絶縁膜からのキャリア双極子相互作用、分極エネルギー、エネルギのディスオーダーを計算するモデルを新たに構築することに成功した。 界面におけるディスオーダーや分極エネルギーが予想以上に大きく、これまで電荷輸送において本質的な問題として考慮されてこなかった問題が、実は内因的な電荷輸送の問題そのものに大きくかかわることを見出し、その効果を見積もるモデルを構築したことについては新たな発見であった。一方トランジスタ等のデバイスモデルの構築そのものは界面からの効果をあらわに導入して、次年度再び目指すこととした。
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今後の研究の推進方策 |
マーカス式を導入したディスオーダーモデルを構築し、その際、キャリア-永久双極子相互作用について、エネルギーのディスオーダーに、無視できない空間相間が生じていることを見出している。この効果は、有機半導体の電荷輸送において、移動度の電場依存性に大きな影響を与えるはずである。 このことはトランジスタにおいていわゆる線形領域の動作に深く影響する。この効果を明確にするため、電界効果トランジスタ構造でのモンテカルロシミュレーションを構築し、ディスオーダーの影響がどのようになるか検討する。 その上で電極界面、トラップの影響を考慮して、エネルギーのディスオーダーを導入したデバイスモデルを構築する。このデバイスモデルのデモンストレーションとして、各モデル分子に対する、アルキル鎖の長さ、有機絶縁膜の秩序状態を考慮したデバイスの最適化条件を導く。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度において、本研究の電荷輸送モデルを適用した、有機トランジスタのデバイスシミュレーションを構築し、学会で発表する予定であった。研究の過程でゲート絶縁膜からの寄与によるポーラロンやディスオーダーの形成の効果が大きく、デバイス内で伝導機構そのものが変化していることが分った。そこで計画を変更し、デバイスモデルの再検討とそれに伴う材料パラメータの導出・計算をおこなったので、未使用額が生じた。 このため次年度に本研究の電荷輸送モデルに基づく有機トランジスタのデバイスモデルの構築及び、それに伴うモデル分子の量子化学計算による物性パラメータの導出を行うため、市販の量子化学計算のライセンス料と、学会発表、さらに本研究の論文投稿・出版を行うため、未使用額をその経費に充てる予定である。
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