異方性分子の有機半導体の電荷輸送について、最終年度では、特にトランジスタ構造でのチャネル部位の内因的な電荷輸送そのものが、ゲート絶縁膜等界面からの影響により、大きく変化する機講を明らかにした。 有機絶縁膜に用いる高分子材料を、1セグメントごとに分割し、各セグメントの作る双極子モーメントが高分子鎖に沿った軸周りをランダムに回転し、配向しているとしてモデルを作成した。密度汎関数計算を用いて、1セグメントごとの双極子、分極率を計算し、この双極子、及び分極が、高分子鎖に沿った配向の秩序パラメータに従った軸周りをランダム配向するとして、本研究のモデル手法を応用してモデル化し、チャネル部のキャリアの電子状態が、絶縁膜の双極子、分極によって与えられる静電ポテンシャルの影響を導出することに成功した。誘電分極が大きい材料でも、永久双極子が大きな材料においては、本モデルの効果により有機半導体の電荷輸送は、線形領域での移動度を低下させることを見出した。 一方この効果はトラップサイトとしては機能せず、Vthのシフトには影響しないことを見出した。また分極はチャネル部の有機半導体の伝導がスモールポーラロンである場合、再配置エネルギーを増大させる。したがってこのような輸送機講は界面絶縁膜からの、有機半導体キャリアに対するエネルギーのディスオーダーの効果と、ポーラロンの効果の両方が機能していることを明らかにした。 誘電率の低い材料であっても双極子モーメント大きい材料は有機半導体の移動度が低下する効果のあることを明らかにしたが、その一方で、この効果は絶縁膜がチャネルの電荷輸送部位に対して1nm程度以上離れていると、ディスオーダーの大きさは10分の1程度以下に下がることもあきらかにしており、分子レベルでの材料設計を考慮した有機半導体デバイスの作成する際、本効果を考慮した設計が重要になることを示した。
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