研究課題/領域番号 |
23760287
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
柳井 武志 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30404239)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 磁歪 / 急冷薄帯 / 軟磁性 / めっき |
研究概要 |
Fe_(100-x)Ga_xの急冷薄帯を,単ロール法にて作製した。xは0から30の範囲で変化させ,ロール速度は10 m/sとした。作製した薄帯は,As-cast状態でFeGaまたはFeの結晶相から構成されており,軟磁性化の指標となる保磁力の値は,xは0から30の範囲でほぼ一様の2 kA/mであった。ロール速度10 m/s程度の急冷速度では,微結晶構築が不十分であると判断し,ロール速度の増加を検討したが,飛躍的な効果は観測されなかったため,添加物に着目した。結晶粒の微細化を鑑み,Bを添加した(Fe_83Ga_17)_(100-y)B_y急冷薄帯を作製した。yの増加に伴い,X線の回折ピークがブロードになる傾向が得られ,y = 20で非晶質状態となった。yの増加に伴い,非晶質化が進む傾向が得られたが,y = 10以上の試料では,BとFeの化合物と予測されるFeGa相以外の磁性相の析出が観測された。結果として,As-castの状態では,軟磁気特性の改善は観測されなかった。残留応力の緩和による軟磁気特性改善ならびに非晶質状態からのナノ結晶化を鑑み,y = 20の試料において,300~700度での熱処理を施したが,FeB系化合物の析出等により,飛躍的な軟磁気特性の改善は観測されなかった。 急冷薄帯に関しては,添加物の利用により,結晶粒の微細化は可能と考えられるが,他の化合物が析出しやすい傾向が得られたため,研究計画に掲げた電析手法の確立の方へ研究の主眼を移すことにした。電析法では,めっき条件や浴への添加試薬により,比較的微結晶を得やすいため,本課題の目標達成には有利である。研究計画では無電解めっき法の適用を掲げたが,無電解めっき法よりも廃液処理や浴管理で有利である電解めっき法によるFeGa膜作製を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
急冷薄帯作製では,研究計画に掲げたFeGa, FeGaM(Mは添加元素)の作製は一通り実施した。研究実績の概要で示したように,添加物を用いない場合,結晶粒の微細化が観測されなかった。ロール速度の高速化を検討したが,ロール速度の増加は,As-cast試料がフレーク状になるため,磁歪特性の測定が困難となった。そこで,添加物を用いることにしたが,Feとの化合物化など所望する結晶相の構築や磁気特性を得るには困難と判断した。以上のことから,急冷薄帯作製に関しては,所望する磁気特性は得られなかったもののほぼ計画通り調査することができたと考えている。めっき手法の確立に関しては,組成制御等課題は多いが,電解めっきによりFeGa膜を作製することができたため,計画通りに進んだと考えている。計算機解析は,プログラミングの段階であり,データ取得まで達成できていない。以上のことから,おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
FeGa膜を電解めっきで作製する場合,特にGaの析出電位が大きく卑であるため,一般的に作りにくい材料系である。そのため,国内外の研究報告で,FeGaの電解めっき膜に関する報告は少ない。よって,FeGa膜を電解めっきで作製するプロセス確立を中心に研究を進める。めっき法では,めっき条件やめっき浴への添加試薬により,結晶粒径の調整が比較的容易と考えられる。まずは,浴組成やめっき条件が磁気特性や膜形態に与える影響といった基礎特性を評価する。併せて,計算機解析の実施,作製しためっき膜への熱処理の影響等も評価する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に,めっきで用いる試薬や装置類の購入に使用する予定である。めっき法は,急冷薄帯法よりも,試料作製は容易であるが,作製パラメータが多く,作製条件が試料特性に与える影響を議論する場合には,多数の試料作製とその特性評価が必要となる。これらには,多大な時間を要することから,大学院生にその業務を委託し,謝金を支払う予定である。成果をまとめ,国内で1~2件,国外で1件程度の対外発表を行うための旅費として研究費の一部を使用する予定である。
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