研究課題/領域番号 |
23760288
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
末吉 哲郎 熊本大学, 自然科学研究科, 助教 (20315287)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 超伝導材料・素子 / ナノ構造制御 / 低消費電力・高エネルギー密度 |
研究概要 |
1次元ピンを含むYBCO薄膜での球状ピンのアシスト効果について明らかにするために,平成23年度では,まずYBCO薄膜内で異なる析出を示す3種類のドーパント物質BaZrO3,BaSnO3,Y2O3を用いて,それぞれの物質からなる球状ピンの密度,空間分布の制御を試みた.球状ピンをYBCO薄膜内に導入する方法として,パルスレーザー蒸着(PLD)法におけるターゲット切替法を用いた.ターゲット切替法は,成膜中にターゲットを切替ながら母材料YBCOとピン物質の擬似多層膜(YBCO:層状,ドーパント物質:粒子状(球状),からなる多層膜)を作製する方法であり,切替を調整することでピン物質の密度と空間分布をきめ細かく制御でき,薄膜中に球状のアシストピンを多彩にデザインできるため,本研究に適している.今回,球状ピンの空間分布を制御するために,(i)擬似多層膜の層数,(ii)成膜温度を変化させてそれぞれのドーパント物質を含む擬似多層膜の作製を行った.ドーパント物質,層数,成膜温度の多層膜の結晶性へ与える影響について,現在得られている結果は下記のとおりである:(a)X線回折の結果より,BaZrO3をドーパント物質として用いた場合,層数が多いほど,すなわちドープ量が多いほど,BaSnO3と比較してc軸長が長くなり,結晶が歪むことが分かった.一方,Y2O3をドーパント物質として用いた場合には,c軸長に対する層数の影響はほとんど見られなかった;(b)成膜温度(780℃~810℃)に対する結晶性への影響は,今回どのドーパント物質においても系統的な変化は見られなかった;(c)AFMによる薄膜の表面観察より,どのドーパント物質においても層数を増加させると表面粗さRMSは低い値を示した.ただし,ドーパント物質による系統的な違いは見られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度では,3種類のドーパント物質を用いて,YBCO薄膜内における球状ピンの空間分布を制御し,臨界電流密度に与える影響について明らかにする予定であったが,結晶性への影響までしか調べていない.遅れが生じた理由として,(i)当該年度においてレーザー発振器の発振不良が生じ,薄膜の作製の期間が制限されたこと,(ii)チャンバー内のクリーニング不足により薄膜特性の再現性が損なわれたことがある.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度においては,レーザー発振器の発振不良とチャンバー内のクリーン度低下により,再現性のある薄膜作製を安定して行うことが出来なかったために,研究に遅れが生じ,未使用額を残すこととなった.平成24年度の研究に臨むにあたって,まずレーザー発振器については,昨年度発振不良の原因であった冷却ファンとサイラトロンの交換を行い,現在安定したレーザー発振を得ている.また,レーザー発振器の設置した部屋の湿度がこれまで懸念されていたため,除湿機を設置してレーザー発振器におけるトラブルを未然に防ぐ対策を施している.平成23年度での薄膜の再現性が乏しい原因として,チャンバー内のクリーニング不足が考えられたため,クリーニングを徹底的に行った.特に,基板の設置場所以外でのターゲットホルダー上においてYBCO粒子の付着をそのままにしてYBCO薄膜を作製し続けると,基板の表面温度が低下してくる可能性が考えられる(これは,研究実績の項目で述べたように,多層膜の結晶性の成膜温度依存性が弱かったことから示唆される).以上の対策を施すことで,平成23年度以前における,再現性のある薄膜作製の環境を整える.平成23年度において多層膜作製のノウハウは得られているために,平成24年度前半において,再度多層膜の作製および超伝導特性の評価まで実施し,後半において重イオン照射により1次元ピンを導入し,アシストピン導入による磁束ピンニング特性を明らかにしていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度では,レーザー発振器の発振不良により,薄膜作製を十分に行うことができなかったために,ほとんど費用がかからなかった消耗品(SrTiO3基板,KrFエキシマレーザーの各種ガス,ターゲットなど)を中心に,研究費を利用する.また,国内外で開催される国際会議(ASC2012(米), ICEC24-ICMC2012(日)にエントリー済み, ISS2011(日)へエントリー予定),国内での応用物理学会,低温工学・超伝導学会への参加を予定している.
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