研究課題/領域番号 |
23760288
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
末吉 哲郎 熊本大学, 自然科学研究科, 助教 (20315287)
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キーワード | 高温超伝導体 / 高臨界電流密度 / ハイブリッド磁束ピンニング / 重イオン照射 / 擬似多層膜 / 1次元ピン / 3次元ピン |
研究概要 |
希土類系高温超伝導体の高臨界電流密度化(高Jc化)に向けて,現在最も有効なピンである1次元ピン(線状の格子欠陥や不純物)の更なる高機能化を図るために,この1次元ピンを補助するアシストピンの同時導入を試みた. 平成24年度においては,不純物BaZrO3をナノ粒子すなわち3次元ピンとして導入したBaZrO3/YBa2Cu3Oy擬似多層膜において,成膜温度を変えることでその粒径と空間分布を制御し,この擬似多層膜に重イオン照射により1次元ピンである柱状欠陥を導入することで,1次元ピンへのアシスト効果に与える3次元ピンの粒径および空間分布の影響について調べた. 液体窒素の過冷却温度である65K付近においては,照射後の試料において低磁場では成膜温度の違いはほとんど見られないが,一方高磁場では成膜温度の高い照射試料で広範囲の磁場方向で高いJcを示した.これは,低磁場では試料に侵入する量子化磁束が主に柱状欠陥にピン止めされるのに対し,高磁場では柱状欠陥より量子化磁束の本数が多くなるために,3次元ピンにピン止めされるようになり,特に成膜温度が高い試料において粒径の大きなBaZrO3ナノ粒子に有効にピン止めされたものと考えられる. 一方,液体窒素温度である77.3Kでは,低磁場においても成膜温度の高い照射試料が広範囲の磁場方向で高いJcを示した.これは,高温になると量子化磁束の熱揺らぎが顕著になり,柱状欠陥からデピニングする量子化磁束を,成膜温度の高い試料において存在する粒径の大きいBaZrO3ナノ粒子が有効にピン止めすることによるものと考えられる. 以上より,1次元ピンを補助するアシストピンとして作用するには,3次元ピンの粒径が重要な役割を果たしており,3次元ピンのアシスト効果をさらに強化することで,1次元ピンのさらなる高機能化を図れる可能性があることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不純物BaZrO3をナノ粒子すなわち3次元ピンとして導入したBaZrO3/YBa2Cu3Oy擬似多層膜において,重イオン照射により1次元ピンである柱状欠陥を導入することで,1次元ピンへのアシスト効果に対する3次元ピンの粒径と空間分布の影響について調べた.この結果,1次元ピンと3次元ピンを組み合わせたハイブリッド磁束ピンニングにおいては,その組み合わせだけでなく,3次元ピンの粒径もまた重要な役割を果たしており,1次元ピンの高機能化においては,3次元ピンのアシスト効果の強化が重要になることを明らかにした.一方,ハイブリッド磁束ピンニングにおける3次元ピンの空間分布の影響については,成膜温度が高い照射試料において,高温(77.3K)において1次元ピンにピン止めされる量子化磁束に固有のキンク変形に関連すると思われる現象が,臨界電流密度と電流-電圧特性をべき乗則で近似した時の指数n値の磁場角度依存性に現れることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題において,希土類系高温超伝導体の高臨界電流密度(高Jc)化に向けて,1次元ピンをさらに高機能化するためには,1次元ピンに対する3次元ピンの補助(アシスト)作用の強化・拡張がポイントになることを明らかにした.今後は,(A) 強いピン力を示す3次元ピンの確立(= アシスト作用の堅牢化)と(B) 3次元ピンの空間分布の制御(= アシスト作用の洗練・拡張化)を試みるために,ピン物質をBaHfO3, BaSnO3, Y2O3を用いて擬似多層膜法によりYBCO薄膜内に3時現品を導入し,これと重イオン照射(独立に1次元ピン導入)を併せることで,1次元ピンと3次元ピンを組み合わせた“強化型ハイブリッド磁束ピンニング”を構築し,高磁場かつ全磁場方向で高Jc (ex. Jc > 1 MA/cm2 at 5 T) のデザイン指針を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題では,高温超伝導薄膜に対して1次元ピンを導入する際,円柱状欠陥を形成する重イオン照射を用いる.この重イオン照射 においては,茨城県東海村にある原子力機構のタンデム加速器を利用するが,平成24年度においては,震災による加速器の建家補修が相次いで入り,利用できなかったことにより,未使用額が生じた.マシンタイムを平成25年度(4月4日 以降)に確保できたため,タンデム加速器利用料として未使用額を使用し,1次元ピンに対する,もう一つのアシストピン,交差した1次元ピンを導入し,そのアシスト効果を明らかにする.
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