研究課題/領域番号 |
23760293
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
西永 慈郎 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (90454058)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 化合物半導体 / GaAs / MBE / 結晶成長 / 量子ドット / 太陽電池 |
研究概要 |
本年度はフラーレン添加GaAs結晶の光電流スペクトルと、フラーレン多価金属複合体・CuPcヘテロ構造の吸収係数の評価を行った。フラーレンをGaAs結晶中に添加すると電子トラップが形成され、そのトラップから電界によって電子が解放される。そこでフラーレン添加GaAs薄膜の光照射下におけるキャリア濃度測定を行った。フラーレンを添加していない結晶は波長が850nmよりも短い光のみ吸収が起きるが、フラーレンを添加したGaAs結晶は、波長1200nmの光を照射下においても、電子濃度が上昇し、抵抗率が減少した。これはフラーレンを添加することによって、GaAs結晶中に中間準位が形成され、中間準位を介して電子濃度が増えたためと考えられる。つまり、フラーレンが量子ドットとして機能していることを示している。今後はフラーレン添加GaAs薄膜をn型GaAs結晶上に作製し、Capacitance-Voltage 測定を行うことで、さらなるフラーレン量子ドットの物性評価を行い、量子ドット太陽電池として応用を目指す。有機半導体の結合力はvan der Waals力であるため、機械的・化学的強度が極めて脆弱であり、大気暴露することによって高抵抗化する。有機薄膜を改質する手法として、我々は多価金属を添加し、有機分子の光学的特性を残しつつ、機械的・化学的強度を飛躍的に上昇させることに成功した。そこで有機分子多価金属複合体薄膜を有機太陽電池に応用するため、太陽電池構造の吸収率を測定した。フラーレンCuPcバルクヘテロ構造の場合、有機分子間の相互作用は弱く、太陽電池構造の吸収スペクトルはフラーレンとCuPcの吸収スペクトルを足し合わせたものとなるが、多価金属を添加した場合の吸収スペクトルは可視光領域の吸収率が飛躍的に増大した。この吸収率の上昇は太陽電池としての動作改善に期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無機半導体中に添加した有機分子量子ドットを用いた新規デバイスについては、研究計画通り進んでおり、次年度には量子ドット太陽電池と高速トランジスタへのプロトタイプ作製を狙う。一方、有機・無機複合体を用いた有機太陽電池は光起電力は確認しているが、効率向上に向けてのさらなる工夫が必要であり、バルクヘテロ構造を用いて電流増大を狙う。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究費によって、研究に必要な装置・環境を構築した。今後は有機太陽電池の劣化試験を行い、多価金属添加が太陽電池デバイスとしての機械的・化学的強度の増大をもたらすことを示す。この研究は"ロバストな有機太陽電池"への研究であり、産業応用上極めて重要であると考えている。有機分子量子ドットは、GaAs pin構造を用いることで量子ドット太陽電池だけに限らず、電流注入による発光デバイスとしての応用も図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は結晶成長に必要な消耗品(液体窒素、材料、基板代)と、SIMS、TEMの依頼測定の費用、国際学会にて発表するための旅費として使用する。
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