研究課題/領域番号 |
23760296
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
舘林 潤 東京大学, ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構, 特任助教 (40558805)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナノワイヤ / 量子ドット / 単一光子発生 / 太陽電池 / InAs/GaAs / 光子アンチバンチング / 量子もつれ光源 |
研究概要 |
本研究は半導体ナノワイヤを用いた単一光子発生器の実現に向けた結晶成長技術の確立を目的とする。具体的には、研究代表者がこれまで培ったGaP系ナノワイヤの結晶成長技術を生かし、より発光効率が高く一般的な材料であるGaAs基板上ナノワイヤ結晶成長技術の確立を図り、光学・構造評価を通じてナノワイヤの形成メカニズムを解明した。さらに、ナノワイヤに量子ドットを導入したボトムアップ的アプローチによる単一光子発生器含む発光素子構造を提案し、結晶成長・プロセス技術及び光学評価技術を確立し動作実証を行った。当初の研究計画では物材研を基盤に研究を進める予定であったが、その後より強力に研究を遂行すべく研究開始時より東大ナノ量子機構・荒川研究室の特任助教として研究を進めてきた。研究内容に関しては、当初はナノワイヤ中に等電子トラップを埋め込むことにより単一光子発生を目指す予定であったが、その後より高効率且つ再現性良く単一光子発生を実現できる量子ドットをナノワイヤ中に埋め込む構造を採用し研究を遂行した。具体的には、量子ドットを有するナノワイヤ構造を作製するにあたり、本研究機構が有する電子線描画装置により40nm程度の微細パターン基板を作製し、有機金属気層成長法により位置制御されたナノワイヤを作製しヘテロ構造を埋め込むことにより量子ドット構造を実現した。当研究機構が有する顕微分光測定装置を用いることにより単一のナノワイヤ量子ドットからの励起子及び励起子分子からの発光を確認した。また自己相関測定を行い光子アンチバンチングを観測した。これは観測した発光が3次元的に閉じ込められたキャリアの発光再結合による非古典発光であることを意味しており、単一光子発生プロセスが起きている事を示唆している。また、量子ドットをナノワイヤ中で多層化する技術も確立し、従来では不可能であった50層積層した構造を作製することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的の一つに単一光子発生器の実現があることは概要で述べたところであるが、当初想定していた材料系(GaP中の等電子トラップ)とは異なるものの、直接遷移であるGaAsナノワイヤに発光強度の強い高品質なInAs量子ドットを埋め込むことに成功しておりナノワイヤの結晶成長技術を確立したといえる。また光学・構造特性により量子ドット構造の評価や光学特性を評価するだけでなく、室温での発光も確認していることから高品質の量子ドットがナノワイヤ中に形成されていることを示唆しているものである。またナノワイヤ形成に必要なパターン形成技術を確立しただけで無くデバイス応用に向けた電極形成技術や埋め込み技術を確立したことから、研究計画で本年度に達成されるべき研究目標を十分満たしている。さらに本年度は自己相関測定により光子アンチバンチングを観測している。これは研究計画で次年度以降に達成されるべき研究目標であり、本年度で達成したことは当初の計画以上に研究が進展していることを表している。加えて、ナノワイヤ中の量子ドットの積層化にも成功しており、50層まで結晶品質を劣化させること無くきわめて高品質のナノワイヤ量子ドットを作製することが出来ている。この結果は、高密度な量子ドットが形成可能であることから量子ドットの離散的な状態密度を中間バンドに用いた高効率太陽電池への応用が期待できる。尚高効率太陽電池への応用については次年度に達成されるべき研究目標の一つであり、この結果についても本年度で達成したことは今後の研究を進める上で非常に重要である。以上のことから、本年度の研究は当初の計画以上に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は本年度当初の計画以上に進展しているとはいえ、基本的に当初の研究計画どおり遂行していく。材料系は引き続きInAs/GaAs系を用いて研究を進める。具体的には本年度の結果を元に更なるナノワイヤ量子ドットの高品質化を目指す。成長条件を最適化することにより発光強度や均一性を改善するとともに、単一光子発生器としての性能の向上を図る。ナノワイヤ量子ドットを用いた単一光子発生器はより対称性の良い三回対称性を持つ(111)面上の結晶成長であるという特質上、従来の量子ドット単一光子発生器で問題となっていた微細構造分裂を抑制することが可能になることが示されており、量子もつれ光源への応用も期待されている。本年度は微細構造分裂の抑制効果についても検証を行う。一方で、光デバイス応用に向けたプロセス・評価技術の確立を図る。既に本年度において基盤技術の確立を図ったが、今後は電流注入型単一光子発生器や太陽電池のプロトタイプの作製に注力する。特にナノワイヤ量子ドットを有する太陽電池は効率が向上することが期待されており、電圧電流特性やスペクトル応答特性など太陽電池の基本特性を評価することにより更なるナノワイヤ量子ドットの成長条件の最適化へフィードバックをかける。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究開始当初はGaP:Nというバンドギャップの大きい材料を用いたナノワイヤ構造を作製することを想定し、短波長側の励起レーザ光源の購入を検討していたが、その後直接遷移であるGaAs系材料を選定した結果、現在の研究機関が有する評価装置で十分対応できることからその分の研究費が次年度繰越として生じた。また現研究機関では結晶成長に必要な半導体ウェハ及び原料ガスを在庫として十分に有することから新たに本年度消耗品として購入する必要が無かったため、剰余分が次年度繰越として生じた。次年度では、消耗品に関しては当初の予定通り半導体ウェハ及び原料ガスの購入を行うとともに、本年度の剰余分として新たに透過電子顕微鏡による断面構造評価に研究費を充てる予定である。また、デバイス応用の一つとして有望視されている太陽電池構造実現に向け、電流-電圧等電気特性を評価すべく従来の予定通り評価測定装置(デュアルソースメーター)を購入する予定である。さらに本年度は当初の計画以上に成果が算出されたため、次年度において国内・国際学会へ積極的に参加しまた論文に積極的に投稿することにより成果を広く公表する。そのため、国際学会の参加諸費用(渡航費及び参加費)や論文投稿の諸経費として当初の計画よりも多く研究費を充てる予定である。
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