研究課題/領域番号 |
23760302
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大平 昌敬 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (60463709)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 帯域通過フィルタ / マイクロ波・ミリ波 / 有極形フィルタ / 遮断導波管 / 周波数選択性多機能膜 / 反共振 |
研究概要 |
ミリ波用小型遮断導波管帯域通過フィルタを実現すべく、初年度である平成23年度は、主として有極形平面共振器(周波数選択性多機能膜)の開発ならびにフィルタ設計法の確立に注力し、以下のような研究実績を上げた。(1) 遮断領域で動作する有極形平面共振器(周波数選択性多機能膜)の開発:これまでの有極形平面共振器は、基本モードが伝搬可能な導波管で動作していたために本研究がターゲットとする遮断導波管では所望の共振特性が得られない。そこで、導波管の遮断領域においても通過域で共振と阻止域で2つの反共振を実現できる新しい共振器を開発した。開発した有極形平面共振器の動作原理についても詳細に検討を行い、共振器の支持基板である誘電体の比誘電率の異方性が周波数特性に与える影響などを明確化した。(2) フィルタの高効率設計法の確立:立体導波路である遮断導波管に平面構造である有極形共振器を組み合わせた新たなハイブリッド構成のフィルタのための設計法を確立した。特に、遮断領域内に装荷された平面共振器の共振特性の抽出・評価に成功したことが本設計の確立に大きく貢献した。本手法を用いた一例として、マイクロ波帯(Xバンド)でフィルタの設計を行い、電磁界解析ならびに実験の両方によって本法の有効性を実証した。(3) 偶奇モード共振を利用した多モード平面フィルタの開発: (I)の研究成果のみならず、急峻な帯域外減衰特性を実現する新たな手法も提案した。これは共振器の奇モード共振の奇対称電界分布を巧みに利用した方法であり,その設計法は従来とは大きく概念を異にするものである。そのための共振器やフィルタ構造も提案し、優れた周波数選択性を示すフィルタを設計・開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終目標であるミリ波小型遮断導波管帯域通過フィルタの実現に向けて、平成23年度は、(1) 遮断領域で動作する有極形平面共振器(周波数選択性多機能膜)の開発と、(2) 高効率なミリ波フィルタの設計法の確立の2点を初年度の課題として挙げた。各々の達成度とその理由は以下のとおりである。(1) 遮断領域で動作する有極形平面共振器(周波数選択性多機能膜)の開発:当初の予定通り、新しい有極形平面共振器の開発に成功した。その研究成果は、マイクロ波分野の三大国際会議の1つであるAsia-Pacific Microwave Conference 2011(査読付き)に採録された。また、その研究途中で得られた一部の成果については査読付き論文に盛り込み、IEICE Transactions on Electronicsにて論文発表も行った。よって、初年度の第一の目標は達成されたと考える。(2) 高効率なミリ波フィルタの設計法の確立:立体導波管・平面共振器のハイブリッド構成のフィルタ設計法を当初の計画通り確立した。本設計法やその設計例は、上記の国際学会のみならず、国内の電子情報通信学会マイクロ波研究会、総合大会、ソサイエティ大会でも口頭発表を行い、研究は当初の計画通り順調に進んでいる。なお、フィルタの等価回路によるモデル化は不十分な点があるため、次年度も継続して検討を実施する。このように研究は計画通りに遂行され、当初の研究目標を達成している。敢えて問題を挙げるならば、本研究を通して、開発した共振器の不要共振が阻止域特性を劣化させることが明らかとなった。これを解決すべく、従来とは異なる新しい側面からのアプローチによって本手法の解決も試みている。それについても優れた成果を挙げており、学会発表において専門家から高く評価されている。よって、平成23年度はおおむね順調に進展したと総括できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の課題であった有極平面共振器とフィルタ設計法の開発が順調に進んでいることを受けて、提案書通り次年度(平成24年度)では、共振器の実装性を考慮した小型遮断導波管フィルタの高精度設計を研究課題として掲げる。これは、最終年度(平成25年度)のミリ波帯フィルタへの応用に向けた重要なステップである。特に、次年度は以下の3点を推進方策とする.(1) 有極形平面共振器を用いた遮断導波管フィルタの高精度な等価回路モデル化:帯域通過フィルタの設計では、フィルタ全体を等価回路でモデル化することによって設計の見通しが非常によくなる。しかしながら、本研究開発のフィルタは立体導波管・平面共振器のハイブリッドという新しい構成のため、設計に適した等価回路モデルは存在しない。そこで、通過域特性のみならず阻止域特性をもモデル化できる回路構成を考案する。(2) 遮断領域で動作する有極形平面共振器(周波数選択性多機能膜)の設計:上述の回路構成が決まれば、フィルタの設計仕様に基づいて共振器に要求される共振特性が規定される。よって、平成23年度に開発した有極形平面共振器の設計チャートを作成する。本年度はマイクロ波帯で解析を行った後、周波数で規格化して来年度のミリ波帯へ適用する(3) 帯域通過フィルタの設計および試作実験による検証:平成23年度に開発したフィルタ設計法ならびに次年度考案する等価回路モデルを組み合わせて、中心周波数10 GHz、比帯域4%のマイクロ波フィルタの設計、試作を行う。特に、最終年度のミリ波帯応用を視野に入れて、平面共振器の立体導波管への実装性や平面共振器の製作精度を考慮したCAD設計を行う。複数回の設計・試作・実験を繰り返し、製作上のクリティカルポイントを実験により見出す.以上の研究指針・計画は、最終年度のミリ波フィルタの実現のために必要不可欠な研究フェーズであると確信する。
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次年度の研究費の使用計画 |
小型遮断導波管フィルタの研究開発を促進するため、実験を行うのに必要な部材ならびに研究成果発表に必要な国内外旅費、発表費用を下記のとおり研究費として計上する。(1) 実験設備費・試作費(計52万円):本学の設備であるベクトルネットワークアナライザを用いてフィルタ回路の測定を実施するために必要な同軸・導波管変換器(2個30万円、本年度下半期)を購入する。また、設計した有極形平面共振器(周波数選択性多機能膜)のエッチングによる試作経費(1回の試作費6万円、本年度は合計3回の試作を実施予定)、ならびにフィルタ測定の高精度測定に必要な治具の製作費(4万円)を計上する。これによって次年度の研究推進方策に掲げる試作・測定評価による検討が実施できる。(2) 成果発表のため国内外旅費(計38万円):本研究開発で得られた研究成果は積極的に国内外の学会で発表し、広く関係者に公表する。国内では、電子情報通信学会ソサイエティ大会(9月、富山大学)と総合大会(3月、岐阜大学)の2回の旅費として計10万円、同学会マイクロ波研究会の発表(2回、場所は未定)の旅費として計6万円を計上する。海外では、世界最大のマイクロ波国際会議であるInternational Microwave Symposium(6月、カナダ・モントリオール)での発表の渡航旅費に22万円を計上する。(3) その他(計20万円):得られた研究成果は査読付き学術雑誌に投稿予定である。学術雑誌論文掲載費として8万円、国内外の学会発表投稿費として計7万円を計上する。また、本研究開発の研究補助に係る謝金として5万円を見積もる。以上の予算計上によって、当初の研究計画書通り次年度(平成24年度)の研究費は合計110万円である。なお、収支状況報告書における「次年度使用額」の合計は0円ではないが1000円未満のため、研究費の使用計画に大きな変更点はない。
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