研究課題/領域番号 |
23760302
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大平 昌敬 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (60463709)
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キーワード | 帯域通過フィルタ / 導波管 / 遮断導波管 / マイクロ波・ミリ波 / 有極形フィルタ |
研究概要 |
ミリ波用小型遮断導波管帯域通過フィルタを実現すべく、平成24年度は以下の項目(1)~(3)に注力した。その研究実績の詳細を下記に示す。 (1) 遮断領域で動作する有極形平面共振器の開発・設計:初年度にを設計したフィルタを評価したところ、スプリアス共振が通過域の近傍に発生し、阻止域が狭いことが判明した。本年度は、この問題点を改善すべく不要共振の原因を洗い出し、新しい共振現象を利用した共振器を開発した。その共振現象は、遮断導波管が有する誘導性成分と平面共振器の持つ反共振特性を併用したハイブリッド共振である。それによって通過域近傍の不要共振を抑圧しつつ、通過域形成に必要な共振点と、阻止帯域幅拡大のための反共振の両方を実現した。 (2) マイクロ波帯におけるスケールモデルによる設計法の検証:本年度開発したハイブリッド共振器を用いた遮断導波管フィルタとして、初年度に開発した設計法によりマイクロ波帯でフィルタを設計した。その結果、仕様通りに中心周波数10GHz、比帯域2%の通過域を形成し、さらに阻止域においては11GHz~17GHzで80dB以上の高減衰量を実現した。また減衰量20dB以上では12GHzという広い阻止帯域幅も得られた。フィルタ体積においては、従来のフィルタの30%程度であり、立体回路として非常に小型なフィルタである。また、フィルタの試作・測定によっても設計と同様の良好な特性が得られた。よって、昨年度開発した設計法の有効性が実証できた。 (3) フィルタ設計パラメータの抽出技術の開発:以上の研究成果のみならず、共振器結合形フィルタにおける設計パラメータの抽出技術も新たに提案・開発した。これによって、共振器間の複雑な電磁界結合も同一の等価回路を用いて統一的に扱うことが可能となった。また、従来評価が困難であった入出力直接結合の抽出にも初めて成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終目標であるミリ波小型遮断導波管帯域通過フィルタの実現に向けて、平成24年度は以下の2項目を課題として挙げた。それぞれの達成度は下記のとおりである。 (1) 遮断領域で動作する有極形平面共振器(周波数選択性多機能膜)の開発・設計:昨年度の実績状況報告書においても記載したように、昨年度開発した共振器では不要共振が発生し、阻止域特性を劣化する要因であった。しかし本年度は、新たな共振現象を導入することによって広い阻止帯域幅と高い減衰量の両方を実現し、昨年度の問題点を解決した。あわせて共振素子形状が簡易化されたことも、高い製作精度が要求されるミリ波フィルタの実現にとって大きな前進である。よって、共振器開発は順調に進展している。 (2) マイクロ波帯におけるスケールモデルによる設計法の検証:研究実績の概要で記述したように、昨年度開発した設計法を用いて新たな高性能フィルタの設計に成功した。よって、遮断導波管フィルタの設計法として確立することができた。この設計法は、最終年度のミリ波フィルタ設計にも適用可能である。よって、フィルタ設計法の開発も目標を達成できたと考える。 また、共振器結合形フィルタの設計パラメータの抽出技術の研究成果は、マイクロ波分野の三大国際会議のうちの2つInternational Microwave SymposiumとAsia-Pacific Microwave Conference(両方とも査読付)に採録された。さらにIEICE Transactions on Electronicsで論文発表、国内でも電子情報通信学会マイクロ波研究会、総合大会、ソサイエティ大会で口頭発表を行い、研究成果を精力的に発表している。このように研究は計画通りに遂行され、本年度の研究目標を達成した。よって、平成24年度の達成度は100%と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、ミリ波帯遮断導波管フィルタの実現を目標に研究開発を推進する。平成24年度に製作性に優れた共振器の開発に成功したこと、また平面共振器装荷形の遮断導波管フィルタの設計法が確立したことから、最終年度はマイクロ波帯設計からミリ波帯設計への高周波化を目指す。具体的な今後の研究の推進方策として下記を掲げる。 (1) ミリ波帯での遮断導波管フィルタの設計:最終年度は、平成24年度に開発した有極形平面共振器を用いて中心周波数60GHz、比帯域5%のミリ波フィルタを設計する。特に、共振器の製作上のクリティカルポイントである線幅及び線間のギャップ等が、エッチングによる製作限界を超えることのないように留意しながら設計を行う。 (2) ミリ波帯での設計・測定評価:近年、計算機で扱える解析規模が拡大したとは言え、その精度の検証は実験なくしては成立しない。よって、ミリ波帯での実装問題は実験を通して設計の有用性を明らかにする。このように設計、試作、実験、再設計のフィードバックプロセスによって、高性能かつ超小型ミリ波フィルタの製作精度と設計精度の向上を図る。 (3) 遮断導波管フィルタの高性能化:平成24年度に開発した有極形平面共振器はミリ波帯での使用に適した簡易な形状であるものの、従来の共振器に比べて反共振点の数が1つ減少しているため、フィルタの周波数選択性の面ではやや劣る。そこで、それを解決するフィルタ構造についても検討を行い、平成24年度に実現した優れた阻止域特性を維持したまま、通過域での高い周波数選択特性も実現する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究開発課題の研究を促進するため、実験の実施に必要な実験部材ならびに研究成果発表に必要な国内外旅費、研究成果発表費用を下記のとおり計上する。 (1) 実験設備費・試作費(計60万円):本学の設備である高周波測定器(ベクトルネットワークアナライザ)を用いてフィルタ回路の測定を実施するために必要なU帯同軸・導波管変換器(2個30万円)を購入する。また、設計した有極形平面共振器のエッチングによる試作費(1回の試作費5万円、本年度は合計4回の試作を実施予定)、ならびに測定校正に必要な部材の製作費(10万円)を計上する。これによってミリ波フィルタの周波数特性を実測でき、次年度の研究推進方策に掲げる試作・測定評価が実施できる。 (2) 成果発表のため国内外旅費(計45万円):本研究開発で得られた成果は積極的に国内外の学会で発表する。海外では、世界最大のマイクロ波国際会議であるInternational Microwave Symposium(6月、米国シアトル)での発表の渡航旅費に30万円を計上し、国際会議EMTS2013(5月、広島市)の旅費に5万円を計上する。国内では、電子情報通信学会マイクロ波研究会の発表(2回、場所は未定)の旅費として計10万円を計上する。 (3) その他(計35万円):得られた研究成果は査読付き学術雑誌にも投稿予定である。国内学術雑誌論文掲載費として8万円、海外論文掲載費として17万円、国内外の発表投稿費として計6万円を計上する。また、本研究開発の研究補助に係る謝金として4万円を見積もる。 以上の予算計上によって、平成25年度の研究費は合計140万円である。本予算が滞りなく執行できれば本研究開発は順調に進むものと考える。なお、収支状況報告書の「次年度使用額」の合計欄は0円ではないが、千円程度と少額のため当初の研究費使用計画から大きな変更はない。
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