研究課題/領域番号 |
23760305
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
雨宮 智宏 東京工業大学, 量子ナノエレクトロニクス研究センター, 助教 (80551275)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 光集積 / メタマテリアル / 化合物半導体 |
研究概要 |
これまで物質固有だと思われてきた誘電率や透磁率の値を人工的に制御して、自然界に存在しない物質(代表例として負の屈折率をもつような物質)を作り出そうという研究が最近注目を集めている。このような人工物質は、「メタマテリアル」と呼ばれる。メタマテリアルの中でも、特にテラヘルツ(THz)から可視光領域(波長100μmから0.5μm程度)の高周波において動作するものは、プラズモニック・メタマテリアルと呼ばれており、現在のトレンドの1つとなっている。 上記のようなプラズモニック・メタマテリアル(以降、メタマテリアル)を利用することで、高周波領域において全く新しい動作原理や構造を持った機能素子を実現できる。実際に、メタマテリアルを機能素子として利用するためには、何らかの外部入力によって、メタマテリアル自体を動的に制御させる必要がある。しかし、現行のメタマテリアルの研究は、その構造上の理由から作製した物質自体の静的特性のみを調べることに特化している。ロスアラモス国立研究所などの一部のグループのみが動的特性について研究をしているが、まだまだ数は少ない。 そこで、本研究では「メタマテリアルを動的に制御すること」に主題を置いた。従来の化合物半導体をベースとした導波路型光素子に、誘電率や透磁率の値を人工的に制御できる「メタマテリアル」の概念を融合することによって、既存の技術では不可能であった新しい機能をもった素子(メタフォトニクスデバイス)を実現することを目指した。具体的には、光通信帯域におけるメタマテリアルの動的制御(誘電率および透磁率の値を独立に制御することを意味する)、及びそれをベースとした光通信機能素子の実証を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の焦点の1つは、メタマテリアル動作周波数の高周波数化であり、THz・光通信帯・可視光域での動作を目指して、各国の研究機関から多くの報告がなされている。しかし、現状のメタマテリアルはガラス基板上に微細共振器構造を作製することで実現されているものがほとんどであり、光通信素子のような実際のデバイスとの整合性は未知数である。そのような中、導波路デバイスにおける遮蔽素子、ファイバ端面にメタマテリアルを配置した発光デバイスなど、最近になって、徐々にではあるものの、実際の光通信デバイスとの融合が試みられている(我々はこのような試みを広義の意味で"メタフォトニクス"と呼んでいる)。 光通信帯域において、導波路型光素子に比透磁率が1ではない層を導入するという試みは、理論でこそ様々な検証が成されているものの、実験面では世界で数件の報告があるのみである。特に、現在の光デバイスの主流であるInP系の導波路型素子に限って話をすれば、世界的に見ても未だ報告はされていなかった。そのような中、申請者は、メタマテリアルをベースとすることで、比透磁率が1ではない層を光導波路内に実現することを初めて実証している。 具体的には、光導波路上に金属微細共振器を配置した構造において、光透過特性を測定することで、実際に導波路内の比透磁率が変化していることを観測した。本結果は、研究提案を推進する上で必須項目の1つであり、これをベースとして、来年度以降の期間内目標を達成したいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究内容として、以下の項目(1)(2)に従って研究を推進する予定である。(1) 化合物半導体のキャリアダイナミクスを用いたメタマテリアルの動的制御を含む、詳細な基礎データの取得を試みる。(2) 発展研究として、メタマテリアルと導波路型光デバイスを組み合わせることによって得られるデバイスの一例として、全光メモリの試作を行う。 研究1では、メタマテリアルを化合物半導体のみで作り上げることによって動的に制御することを目指す。電圧印加やバンドギャップより高エネルギーの光での励起によって半導体中のキャリア密度を制御すれば、アクティブなメタマテリアルの作製が可能となる。提案する構造は、化合物半導体基板上に浅い溝を掘り、その内部に金属微細共振器を一定周期で並べたものである。本構造の上部からゲート電圧を印加し、化合物半導体内に伝導キャリアを生成させることで、金属共振器のギャップ容量を変化させることができる(それに伴ってメタマテリアルの特性が変化する)。研究2では上記の研究項目1により、実際に微細共振器アレイの誘電率・透磁率が外部信号によってどの程度変化するかを見積った後、その値を用いることで光メモリの設計・作製を行う。導波路型光素子にメタマテリアルを導入する技術に関しては、後述の「従来の研究経緯・研究成果」の項で述べた既存のデバイスにおいて確立されており、大幅な変更なしに作製可能であると思われる。例えば、既存デバイスの上部にSiO2絶縁膜を介してゲート電極を作製することで、導波路型光メモリを実現することが出来る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
23年度は効率的に研究費の使用が出来たため、残額が生じた。次年度は、主に以下のように研究費の使用計画を立てている。<設備備品費>申請者が、研究計画・方法の欄で述べた光通信帯域におけるメタマテリアルを実現するにあたり、作製した微細共振器構造の評価は最重要課題の一つである。メタマテリアルの特性評価は、主に素子の透過光強度と反射光強度によって見積もられるが、その際の偏波依存性を測定する目的で、平成21年度に、カートリッジ型偏波コントローラを新たに必要とする。また、デバイス特性解析のためにシミュレーション用PCを導入する必要がある。<消耗品費、旅費>本研究では、既存のMOVPE 装置を活用するが、InP 基板(4 万円/ 枚)、等の多額の消耗品が必要になる。また、微細共振器構造作製のために高純度金属材料(平成21年度は1種類、平成22年度には数種類導入予定)、光導波路型デバイス作製用にフォトマスク原板・試薬・実験器具類が毎年不可欠である。さらに試作素子の測定評価システムを構築・維持するために、光ファイバ部品・電子部品類が、経常的に必要とされる。また、論文・学会発表といった成果発信を随時行ってゆく。
|