本研究は、従来の化合物半導体をベースとした導波路型光素子に、誘電率や透磁率の値を人工的に制御できるメタマテリアルの概念を融合することによって、既存の技術では不可能であった新しい機能をもった素子を実現することを目指している。 研究目的の前段階として、化合物半導体のキャリア密度を制御することでメタマテリアルの動的制御を行った。制御の概要であるが、化合物半導体基板上に浅い溝を掘り、その内部に金属微細共振器を作製する。このとき入射光の周波数が共振器の共振周波数と一致すると、入射光と金属共振器が共鳴して透磁率・誘電率に変化が生じる。ここで、デバイス上部からゲート電圧を印加することで、化合物半導体内に伝導キャリアを生成し、それに伴って金属共振器のギャップ容量を変化させることができる。この状況下では、金属共振器の共鳴周波数が変化し、対象周波数(光通信帯)において共振器としての性質を持たなくなる。つまり、ゲート電圧印加によるキャリアがあるときの比透磁率は通常の物質と同じく1に固定され、キャリアがないときの比透磁率は1以外の値を取ることになる。 以上の議論にもとづいて、MZI構造を設計した後、実際に半導体基板上に作製した微細共振器アレイの評価を行った。基礎データとしてゲート電圧印加に伴う透過特性の測定を行うことで、実際に透磁率の変化量を見積もった。結果、ゲート電圧2-12V印加時において最大で6.0dBの強度変化が得られた。実際のメタマテリアル特性の解析には実験結果にフィッテングする形で電磁界解析が必須であり、ATLAS TCADソフトウェアおよびCOMSOL3次元解析から、素子内のメタマテリアル領域の透磁率変化による屈折率は電圧印加に伴って2.75から2.85の範囲で変化していることが見て取れた。
|