研究概要 |
2GHzを超える幅広い周波数連続可変ジャイロトロンを開発する為には,目的の発振モードに対して強磁場側に隣接する競合モードによって発振が制限されないように発振磁場が十分に離れていることが重要となる.この条件を満たす発振モードとして,TE7,3,qモード(q:軸方向モード数)を選択した.15T超伝導マグネットを用いた基本波発振にて600MHz DNP-NMRに適用する394GHz近傍でTE7,3,qモードを励起するには空胴共振器半径は2.0mmとなり,電子ビームの最適入射半径は0.91mmとなる.この入射条件を満たす為,発振出力や周波数連続可変性に大きく関わる電子ビーム特性を決定する電子銃形状の最適化を電子軌道計算コードEGUNを用いて行った.カソード電圧15kV,ビーム電流500mAの条件にて,ピッチファクター1.0~2.5の範囲で分散を5 %以下に抑えた設計を実現し製作を行った.空胴共振器は,空胴半径2.0mm,空胴長25mmの条件で製作を行った.長い共振器によりQ値(Q~11500)を上げることで発振開始電流を下げ,周波数連続可変性を生み出す高q次数の軸方向モード励起を狙った. カソード電圧15kV,ビーム電流400mAの条件で動作試験を行った.TE7,3,qモードは,393.47~395.30GHzに亘る1.8 GHzの周波数可変幅となり,先行研究の1.6GHzを超えた.しかし,目標の2GHzには達しなかった.また,弱磁場側で励起するTE2,5モードとのモード競合により発振が停止し,393.53~393.95GHzの間で不連続となった.弱磁場側競合モードによる影響は先行研究では観測されなかった点であり,モード選定における今後の課題である.発振出力は最大で100Wに達したが周波数の上昇に伴い徐々に低下しており,周波数可変全領域で100Wを超えることが次年度の課題となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を遂行する為のジャイロトロン管の製作は概ね完了している.発振出力や周波数連続可変に強い影響を与える電子銃の設計においても,ピッチファクター1.0~2.0の間で速度分散を10%以下にする目標に対して5%以下に抑えた設計を実現することが出来た.このジャイロトロンを用いて,実験を開始しており完全な周波数連続可変ではないものの,設計モードであるTE7,3,qモードにて最大で1.8GHzの周波数可変幅を得るに至っている.また,発振出力は最大で100Wに達した.しかし,目標とする発振出力100Wで2GHzの周波数連続可変の実現には届いていない.本研究ではフランジ接合の組み立て方式管である利点を生かして,空胴長の異なる空胴共振器を入れ替えて発振出力や周波数連続可変幅の特性を調べることも課題としている.現時点では1つ目の空胴長25mmの空胴共振器で試験を行っており,当初の予定よりやや遅れが生じている.
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