研究課題/領域番号 |
23760345
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村松 大吾 大阪大学, 産業科学研究所, 特任講師 (00386624)
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キーワード | バイオメトリクス / 機械学習 |
研究概要 |
筆記動作を用いた一般的な認証手法はオンライン署名認証に代表される,ペン先の移動軌跡のみ用いた認証手法であり,これらの手法にペン持ち方特徴などを考慮することで,認証精度の改善が期待される.そこで本研究では,「オンライン署名認証」「ペン持ち方認証」を組み合わせたマルチモーダル認証手法の構築を目指す. 筆記動作によるマルチモーダル認証手法を構築するためには技術として「オンライン署名認証」,「ペン持ち方認証」及び「Fusion手法」の3つの要素技術が必要となる.また認証手法の有効性を確認するためには,定性的に有効性を示すデータと定量的に有効性を示すデータが必要である.平成24年度はこの中において「ペン持ち方認証」の動的特徴を用いた技術開発及び,開発技術を組み合わせたマルチモーダル認証システムの開発を行った. 「ペン持ち方特徴」の動的特徴としては,筆記時の肌色領域とペン領域を抽出し,二つの領域の関係から,筆記時の手領域を複数領域に分割し,それらのシルエット時系列を用いて認証する手法の開発を行った.開発手法では,動的特徴として平均シルエットを用いることで認証を行った.その結果動的特徴を考慮することで,精度改善に成功した. マルチモーダル認証システムとしては,上記で開発したペン持ち方認証と,ペン先情報から得られるオンライン署名認証をスコアレベルで統合する手法を実装し,評価実験を行った.これらの結果から,ペン先情報のみを用いる一般的なオンライン署名認証よりも,ペン持ち方特徴を利用することで認証精度が改善すること,および静的特徴ではなく,動的特徴を用いることでさらに認証精度を改善できることを確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では3年で筆記動作によるマルチモーダル認証手法の構築を目指しており,今年度は,ペン持ち方の静的な特徴を用いるのではなく,動的な特徴を用いて認証する技術(動的特徴を用いたペン持ち方認証)を開発すること,およびその技術とオンライン署名認証とを組み合わせたマルチモーダル認証技術を開発することを目標として研究を進めてきた. 動的特徴を用いたペン持ち方認証技術開発に関しては,筆記時の手領域を,ペン情報を利用していくつかの領域に分割し,分割した領域毎にシルエット時系列を抽出,そこから計算される平均シルエットを利用して認証に利用する手法を開発した.また収集したデータベースを用いて開発手法の精度評価を行った.その結果,認証に有効な領域に関する知見が得られたとともに,今後の精度改善のヒントを得ることができた. マルチモーダル認証技術開発に関しては,開発した動的特徴を用いたペン持ち方認証技術で計算される認証スコアと,ペン先の時系列を用いたオンライン署名認証技術で計算される認証スコアを組み合わせて認証精度を向上させる手法の開発を行った.動的特徴を用いたペン持ち方認証から得られる複数スコアおよび,オンライン署名認証から得られる複数スコアの解析を行うとともに,組合せ手法の精度評価を行った.評価実験においては2つの手法の組合せにより,単体の手法よりも精度が改善することを確認した.また,ペン持ち方に関する特徴を静的な特徴から動的な特徴へ拡張することによる有効性も確認することができた. 24年度は23年度までの研究成果を論文にまとめることもできたとともに,24年度の研究成果も国際会議に投稿しアクセプトされるなど,研究開発としては計画以上に進んでいる.データベース収集に遅れが生じているものの,全体としては,おおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,筆記動作を用いたマルチモーダル認証技術を開発することができた.しかし,手法に関してはまだまだ改善の余地があり,より精度を高められると考えられる.今後はさらなる精度改善のため,これまでの研究で得た知識を最大限利用して,手法の改良を行っていきたいと考えている.具体的には,ペン持ち方の動的特徴として,オプティカルフローなどの動き特徴を利用したり,手のテクスチャ情報を利用したりすること,学習ベースの統合手法を導入すること,などがあげられる.また,提案手法の有効性をきちんと確認するために,データベースを充実させ,より信頼性の高い評価を行っていきたいと考えている.具体的には,筆記内容の拡充と共に,なりすましデータの収集である.評価用データ収集については,予定よりも質量ともに遅れが生じているため,アルバイト学生などを雇用し,定期的にデータ収集を進めていく予定である. また,より開発手法の適用可能性を高めるために,カメラ設置に依存しない手法への拡張や,筆記内容に依存しない手法への拡張を検討したいと考えている.前者の研究を実現するためには,同じ筆記動作を複数方向から同期して撮影する必要があるため,今年度は必要な機器を購入し,データを収集しながら研究を進めていく予定である.後者に関しては,これまで収集したデータの中には複数文字が含まれているため,データを分割し,分割したデータ間での普遍性を解析することで,有効な特徴を見極め,開発を進め,今後収集したデータを用いて評価を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費としては,データ収集用のノートパソコンと動画再生が可能なデバイスなどを複数台購入予定であるとともに,同期撮影が可能な装置を購入予定である.また研究開発に利用しているマシンの老朽化に伴い,新規にデスクトップマシンを購入予定である.また実験データ保存用のハードディスクも複数台購入する. 旅費としては,国内外学会への成果発表・動向調査のための出張旅費や,協力者のいる成蹊大学・早稲田大学への打ち合わせ出張旅費,データ収集のための出張旅費などを予定している. 人件費・謝金は,データ収集の協力者・被験者などへの謝礼,データ処理を行うアルバイト学生への謝礼等である.なりすましデータ収集では,なりすましの練習等が必要となるため,その時間の謝礼も考慮している. その他としてデータ処理や解析に必要なソフトウェアの購入,研究成果の論文別刷代,国内外学会の参加費などを予定している. なお,本研究において開発するスコア統合手法を他のバイオメトリックモダリティに対して適用を行い評価することを想定し,バイオメトリクスデータベースの購入を予定していたが,公開データベースが利用できることより,そちらを利用して評価することとしたため,データベースの購入はしないことにする.
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