研究課題/領域番号 |
23760356
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
赤嶺 有平 琉球大学, 工学部, 助教 (00433095)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 交通シミュレーション / デマンドバス |
研究概要 |
デマンドバスを交通シミュレーションに統合する上で,ベースとなる交通シミュレータ(以下,RTS)が十分な再現性を持っていることが重要となる.そこで今年度は,交通シミュレータの現況再現性の向上に関して,以下の2テーマについて研究を行った. まず,静的配分における分担交通量の現況再現性の向上を狙ったパラメータ推定を行った.RTSは,現状では自家用車の配分交通量及び各OD間の分担交通量の内,自家用車,モノレール,徒歩に関しては実測値と推定値に高い相関があるが、バスの推計値の誤差が大きい.RTSは,分担交通量推定モデルと配分交通量推定モデルを統合しており,両者を単一の利用者均衡配分問題として同時に解く.その際,各交通モードのサービスレベルは,平均乗車待ち時間,アクセス・イグレス距離,乗車時のランニングコストなどを外生変数として入力する必要がある.したがって,これら外生変数の最適値を探索することでより相関の高い推定値が得られると仮定し実験を行った.その結果,路線バスの全トリップにおける分担率及びOD間分担率の相関が改善された. さらに,道路交通のミクロシミュレーション部の改良を行った.これまで用いていたNagelらの多速度モデルをベースとしたセルオートマトン(CA)モデルは,実装が容易でありかつ本質的に高度な並列性をもつため並列演算に適しているが,時間・空間的に離散的であるためサイズの異なる車両のモデル化やショックウエーブなどのドライバーの反応遅れに起因する現象の微調整が難しいという問題がある.そこで,マルチエージェント・システムをベースとした追従モデルを新たに実装した.新たに採用したモデルは,ニュートン力学に基づき車両の挙動をモデル化するためショックウエーブを含む渋滞に関連する現象を再現可能である.さらにスレッド化によりマルチコアCPUにおける処理速度を大幅に向上させた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,デマンドバスの需要推定をマルチモーダル交通シミュレータに導入するにあたり,ベースとなるシミュレータの基本性能,特に現況再現性について向上しておく必要があると考え,当該作業を重点的に行った.その結果,沖縄県那覇通勤圏を対象としたシミュレーションにおける各OD間の分担交通量の推計値と実測値(沖縄県のパーソントリップ調査によるもの)の相関が向上した. デマンドバスの需要予測を補強するためミクロシミュレーションを用いて実際に運行計画通りに走行可能かを示すことは重要である.その準備として,ミクロシミュレーションの基本モデルをCAの多速度モデルからマルチエージェントをベースとした追従モデルへと変更した.これにより,自家用車とバスのようにサイズが大きく異なる車両が混在するような状況をより正確にモデル化でき,またショックウェーブをより正確にモデル化できるため旅行時間の推定性能の向上が期待できる. また,本研究におけるシミュレーション対象地域は,人口100万人に近い大規模な範囲をカバーするため,シミュレーションの計算効率や並列・分散処理による高速化が重要となる.今年度は,利用者均衡配分の解を得る処理やミクロシミュレーションの更新処理をマルチスレッドに対応させることで高速化を実現した. さらに,デマンドバスの経路探索アルゴリズムの一つである,逐次最適挿入法の実装を行った.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究において,各交通モードのサービスレベルを決定する外生変数の最適値を探索することでより相関の高い推定値が得られたが,確定的利用者均衡配分を用いてるため,各ODにおける交通モードが単一のモードに集中してしまう問題がある.仮に,全旅行者(ここでの旅行者は,交通網を利用するすべての人を指す)が同一の価値観に基づいて合理的に行動するのであれば問題ないが,実際には経済的属性などさまざまな要因で交通モードの選択基準が異なる上,完全に合理的に選択するとは限らない.従って,ロジットモデルのようなランダム効用理論に基づき確率的に配分する必要がある.これは,確率的利用者均衡配分として知られる手法である. デマンドバスの経路探索アルゴリズムについては,逐次最適挿入法を実装ずみであり,遺伝的アルゴリズム(GA)による解法を実装中である.今後は,両者の解及び処理速度の比較を行う.GAを用いた解法は容易に並列処理可能であるため当初からマルチスレッド処理可能なコードとしで実装する.検証後,RTSの静的配分シミュレーションに導入する. RTSは,個々の車両の挙動を追従モデルを用いてモデル化しているため,ミクロシミュレーションへの導入は比較的容易に可能である. 利用者均衡配分の数値解析処理の並列化は,今年度で実施済みであるため,当初24年度以降に予定していたシミュレータの最適化及び並列化に関する作業のうち,GPUによる並列化を実施する. 前述のすべての作業が完了した後,階層型デマンドバスをモデル化し沖縄県那覇市を中心とした通勤圏を対象としたシミュレーション実験を実施する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
デマンドバスの経路探索は,非常に計算負荷が高い上,反復シミュレーションによる解の収束を狙うため高速な計算環境が必要である.今年度に導入した12コアの計算機に加え,2台のマルチコア計算機を導入し分散処理を行うことで高速な計算環境を構築する. ミクロシミュレーションモデルのパラメータ決定のため臨時雇いあげにより実交通の観測を行う.その際の,計測及び集計処理用にノートPCを1台導入する. また,関連研究のサーベイのため2回程度学会参加のための旅費支出を予定している.
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