研究課題/領域番号 |
23760389
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
奥田 裕之 名古屋大学, 情報科学研究科, 研究員 (90456690)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 行動解析 / ハイブリッドシステム / システム同定 |
研究概要 |
連続・離散ハイブリッドシステム(以下ハイブリッドシステム)の同定手法に立脚した行動のモード分割手法を拡張し,人間行動に見られる階層性を表現するための階層的なモード分割構造を有するモデルである「マルチスケール行動モデル」の構築を目指し,本年度は以下の2つの項目について研究を実施した.一つ目は,マルチスケール行動モデルを数学的に記述するための理論面からの整備である.従来型のハイブリッドシステムでは,システムの状態空間を一定の数の部分空間に切り分け,それぞれに異なる動特性を付与したモデルである区分的ARXモデルが用いられているが,これは階層性の表現は不可能であった.本研究では,システムの状態空間の分割を階層的に行うというアイデアを提案し,さらに,連続的な状態空間を分割する決定木(Decision Tree)の新しい数学的記述法を提案することで,階層的なモード分割構造を数学的に矛盾なく記述することに成功した.二つ目は,本行動モデルのシステム同定手法についての理論構築である.従来型のハイブリッドシステムの同定手法(Ferrariら[2001])では,各観測データ点付近の局所的な動特性を表現する特徴量を基に,k-meansクラスタリング手法によりシステム同定を行ったが,本研究では新たに階層的クラスタリング手法を導入し,各モードごとの階層的な類似性を定量化し,階層構造の構築を可能とした.さらには,各観測データ点の特徴量に関する信頼度を,パラメータの分散として考慮することで,観測データのアウトライアに対してロバストなシステム同定を可能とする手法を提案し,システム同定の精度向上も達成された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究予定では,3カ年での研究を通して,(1)マルチスケール行動モデルの数理表現の確立,及び同定理論の構築と整理,問題点の整理,(2)行動の観測情報を用いて人間の行動の提案モデルに基づいたモデル化と行動解析,(3)行動信号に対して生体信号を取り込む事による人間の内部状態を考慮したモデル構築手法の検討,(4)提案モデルとして表現された行動モデルを用いた人間の行動支援系の設計手法の確立,の大きく4つの達成目標があり,本研究により(1)の項目についてはほぼ達成されている.また,(2)の達成のための試験装置製作も同時並行的に進めており,今後比較的短い時間において行動の観測実験を実行できる状態にあることから,おおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究は理論面での構築が主であり,実験装置を製作しつつも,理論的な成果の発表や関連分野での情報収集,数値実験に比重が置かれていた.今後は,現在も製作を進めている実験装置を用いて,タスクの観測を行う.具体的には,比較的運動特性に依存した行動である書画作業,あるいは逆に論理的な判断に大きく依存した自動車における走行タスクを考えており,これらの行動を観測し,行動のマルチスケールモデルとして同定,表現することで,人間の実際の行動に内在する動作の階層的な構造(マクロ,あるいはミクロな視点でみた動作の組み合わせ方や切り替え条件)を推定し,人間の高次行動を発現するメカニズムの理解を試みる.また,同時に,各々のタスクについて,行動における低次から高次までの判断,動作の特徴に合わせた人間への支援装置のシステム工学的な設計手法の確立を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
実際の人間の行動データを観測するため,タスク観測のための実験設備の構築,および改築を行うための部品や部材,工具などを購入する.また,大量の行動の観測データを処理するためには現状所持する計算機では計算力が大幅に不足すると見積られていることから,データ解析のための計算機を新規購入する.さらに,解析の高速化,及び解析ソフトウェアの開発のためのソフトウェアの新規購入が必要であり,これを購入する予定である.また,本年度の研究成果の対外発表や,情報収集,意見交換会に参加するため,国内外での学会への参加を考えており,この参加費,旅費を拠出する予定である.
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