研究課題/領域番号 |
23760393
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
関 弘和 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (90364900)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 制御システム / 生活支援機器 / 筋電義手 / 動作認識 / 最適電極位置推定 |
研究概要 |
本研究はヒトの前腕部運動時に筋線維から発生される筋電位信号によるロバストな動作パターン認識に基づく筋電義手制御システムの開発を目指し,これまでほとんど考慮されてこなかったいくつかの問題を解決し,より実用的なシステム設計を実現することを目的としている。1つ目の重要な課題は,前腕部動作の高精度識別法の開発と,筋疲労や姿勢変動など様々な外乱要素に対するロバスト性向上である。本研究では,トーラス型自己組織化マップ,ニューラルネットワーク,適応型ファジィ推論などを用いた動作認識法をそれぞれ提案し,認識率の比較実験も行った。いずれにおいても従来の手法に新規の改良を施し,80%以上の認識率を獲得することができたが,特にファジィ推論法を用いた手法は,四則演算のみの低計算量であるにもかかわらず98%以上という高い認識率を示し,また筋電位信号の平均値と標準偏差を更新しメンバーシップ関数を逐次再設計していくことで筋疲労にもロバストに対応可能であることも示した。2つ目の課題は,前腕切断者の残存筋の状況により個人ごとに異なると考えられる最適電極位置を推定する手法の開発であり,少数でかつ最適位置の電極使用で高精度動作認識が実現できれば,コスト面の優位性のみならずユーザごとのきめ細かい支援も期待できる。本研究では統計的解析手法である重回帰分析と,ウィルクスΛに基づく判別分析を用いた電極選択手法をそれぞれ提案し,8あるいは16個の測定位置から前腕部動作に対する影響力の大きい順に選択し被験者ごとに異なる最適位置を発見した。最適位置であれば3つの電極でも4つの標準位置測定時と同等あるいはそれ以上の識別率が得られることを示した。このように本研究では,少数かつ最適電極位置の筋電位測定信号から,計算量の少ない簡潔な識別法により高精度かつロバストな前腕部動作認識を実現し,実用的な筋電義手システムの設計を成し遂げた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度における研究計画について,当初の予定は,(1)少数電極使用を目的とした最適電極位置推定法の開発,(2)前腕部動作のロバスト認識手法の開発,(3)義手制御実験システムの製作,の3つであった。(1)については前項でも述べたように2つの統計的推定手法を提案し,多くの被験者に対する実証実験によりその有効性を確認できた。特徴量としてスペクトル情報を用いることや,他の統計手法の適用は次年度への課題となったが,(1)に関しては80%程度,当初の計画を遂行できたと考えている。(2)についても前項で述べたとおり,3つの新しいロバスト動作認識手法を提案し,多くの被験者による実証実験により最大98%以上の高い認識率を実現できた。日常生活動作などを考慮し対象動作数を増やすことや,姿勢変動に対するロバスト性の検討について,23年度は基礎的検証に留まったため,次年度への継続課題となったが,(2)に関しては90%程度,当初の計画を遂行できたと言える。(3)について23年度には,海外メーカの義手装置の購入を無事行い,その分析と装置製作を開始している。当初の計画では24年度に装置製作の完成と,制御実験,評価試験を行う予定としており,そのとおりのペースで遂行できていると言える。以上のことから,23年度の研究達成度は80%以上であり,「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までが研究期間となっており,研究を継続する予定である。その研究内容は当初の計画どおり,(1)義手制御実験システムの製作の続き,(2)筋電義手の制御システム設計,(3)設計・開発した筋電義手の実地評価試験,となるが,これに23年度の研究内容からの継続課題となった,(4)姿勢変動に対するロバスト性向上,(5)各種の統計解析手法による最適電極位置選択,の2つと,新たに(6)視覚フィードバックを用いたトレーニングによる動作認識精度向上,も追加し,複数の大学院生や学部4年生の協力のもと,これらを並行して行っていく予定である。(1)~(3)については,当初計画どおり,義手制御実験装置の完成後,開くや握るなどの動作を人間らしい滑らかな動きとして実現する課題,さらにこれらが使用者に違和感を与えないようなリアルタイム制御として実現できるかどうかの検討,最後に可能であれば実際の前腕切断者による評価実験も計画している。(4)と(5)については23年度にすでに基礎的検討を行った実績があり,(4)についてはファジィ推論法に再設計の考えを導入したものを検討する予定であり,(5)については主成分分析による変数選択法を適用することを考えている。また(6)については,筋電信号を出すためのトレーニング効果は動作認識精度に大きな影響を与える重要な要素であり,本研究でこれまで開発してきた認識手法と組み合わせることでさらなる精度向上が期待できると判断し,研究課題として追加した。24年度はこれらの研究課題に取り組み,計2年間に亘る「実用的筋電義手システムの設計」に関する研究を完結させることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度には前項で述べた6つの研究課題に取り組むこととなり,研究費については,まず(1)~(3)の義手制御実験に関するものとして,筋電義手のリアルタイム制御を行うためのPC,義手の動作を測定する角度センサや圧力センサ,その他の部品類,などに主に使用する予定である。次に(4)~(6)の動作認識実験に関するものとして,被験者の肩や肘の姿勢変動を測定するための角度センサ,多電極測定を行うための筋電センサなどに主に使用する予定である。また人件費や,いくつかの研究成果を発表するための旅費などにも使用する予定である。
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