本研究はヒトの前腕部運動時に筋線維から発生される筋電位信号によるロバストな動作パターン認識に基づく筋電義手制御システムの開発を目指し,これまでほとんど考慮されてこなかったいくつかの問題を解決し,より実用的なシステム設計を実現することを目指した。1つ目の重要な課題は,前腕部動作の高精度識別法の開発と,筋疲労や姿勢変動など様々な外乱要素に対するロバスト性向上である。自己組織化マップ,ニューラルネットワーク,適応型ファジィ推論,ダミー変数型特徴量などを応用した動作認識法により高い認識率を実現し,さらに筋疲労や姿勢変動などの外乱要素への対応も考慮した。いずれの被験者についても認識率向上を実現することができた.2つ目の課題は,前腕切断者の残存筋の状況により個人ごとに異なると考えられる最適電極位置を推定する手法の開発であり,少数でかつ最適位置の電極使用で高精度動作認識が実現できれば,コスト面の優位性のみならずユーザごとのきめ細かい支援も期待できる。重回帰分析やウィルクスΛに基づく判別分析を用いた電極選択手法を検討し,前腕部動作に対する影響力の大きい順に選択し被験者ごとに異なる最適位置を発見した。測定箇所を16箇所とし,その中から2~4箇所を推定する検証を行った。いずれの被験者についても統計的な電極選択による効果が見られ,また2CHという極めて少数の電極であっても測定箇所次第で70%以上の認識率が得られることも明らかになった。このように本研究では,少数かつ最適電極位置の筋電位測定信号から,計算量の少ない簡潔な識別法により高精度かつロバストな前腕部動作認識を実現し,実用的な筋電義手システムの設計に寄与する成果を得た.
|