製造部品の高品質化に伴って,搬送時の接触による物体の表面品質の低下を防ぐため,搬送機構の非接触化が求められており,電磁力を用いた磁気浮上搬送系が提案されている.しかし,問題点として,浮上物体の3次元位置を計測するための変位センサの配置が困難であることが挙げられる.本研究の目的は,これらの課題を解決して磁気浮上搬送系の非接触把持搬送のロバスト性を向上させるため,電磁石の電流と磁束情報をフィードバックすることで,浮上物体の3次元位置を推定し,その推定位置を用いた鉛直方向の浮上制御と水平方向の制振制御および搬送制御を実現することである. 本研究の成果としては,単極電磁石を水平2軸スライダに取り付けた磁気浮上搬送系の実験装置を製作し,電磁石の電流と磁極部に配置した4個のホール素子の磁束(ホール電圧)を計測することで,浮上物体の3次元位置の推定と,その推定値を用いて鉛直方向の浮上制御と水平方向の制振制御が可能であることを数値計算と検証実験により明らかにした.3次元位置推定については,浮上物体の3次元位置に関する運動方程式,電磁石の電気回路方程式,水平2軸スライダの運動方程式および浮上物体の3次元位置とホール電圧の関係式を導出し,これらの関係式から線形オブザーバを設計した.浮上制御と制振制御については,浮上物体の3次元位置の推定値を用いた状態フィードバック制御を実装することで,鉛直方向の浮上制御と水平方向の制振制御を実現した.浮上制御の設計に関しては,モデル化や線形近似誤差を考慮して,安定余裕を大きく確保することで安定浮上が実現できることを示した.また,水平方向の搬送制御に対しては,2自由度積分型最適サーボ系を適用し,浮上時や搬送中の外乱に対しても浮上物体の振動を抑制して目標搬送速度軌道に追従できることを検証実験にて確認し,追従性と制振性が両立できることを明らかにした.
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