研究課題/領域番号 |
23760423
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石川 敏之 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00423202)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 溶接継手 / 疲労強度 / 圧縮残留応力 / オーバーロード / 面外ガセット / ストップホール / カバープレート |
研究概要 |
溶接止端から疲労き裂の発生を防止し疲労強度を向上させる方法として,溶接止端に圧縮残留応力を導入する方法がある.この方法では,溶接止端部の平均応力を圧縮側にシフトさせることによって疲労強度を向上させている.しかし,圧縮残留応力を導入した後,大きな圧縮の荷重(オーバーロード)が作用した場合,溶接止端部が局部的に圧縮降伏し,オーバーロードが除荷された後,溶接止端の平均応力が再び引張側にシフトして,疲労強度の向上効果がなくなる場合がある.本研究では,圧縮残留応力の導入による疲労強度改善効果に,圧縮のオーバーロードが与える影響を明らかにすることを目的としている. 本年度は,面外ガセット溶接継手に対して,溶接したままの疲労試験,圧縮残留応力を導入した状態の疲労試験および圧縮残留応力を導入した後に様々な大きさの圧縮のオーバーロードを与えた疲労試験を行った.疲労試験はすべて板曲げ疲労試験とし,R=-1とした.圧縮残留応力の導入には,疲労き裂を閉口させるICR処理を利用した.溶接したままの疲労強度と比べ圧縮残留応力を導入することにより疲労強度が大幅に改善される結果は,過去の結果と同様であった.200MPa程度以下の圧縮のオーバーロードを1度与えた場合は,圧縮残留応力導入による疲労強度向上効果の低減は小さかった.しかし,それ以上の圧縮のオーバーロードを1度与えた場合,圧縮残留応力導入による疲労強度向上効果がほぼ消失し,溶接したままの疲労強度と同程度まで低下することが明らかになった.また,圧縮のオーバーロードの除荷後,導入した圧縮残留応力が抜ける現象を,導入圧縮応力を簡易的に与えた有限要素解析による評価を行った. さらに本年度は,他の構造詳細として,カバープレートやストップホールに対しても,基本的な疲労試験を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,板曲げ疲労試験機を導入し,疲労強度が低い溶接継手である面外ガセット溶接継手に対して,溶接したままの板曲げ疲労強度,圧縮残留応力を導入した状態の板曲げ疲労強度を与えた.さらに圧縮残留応力を導入した後に作用応力範囲よりも大きくなるように,様々な大きさの圧縮のオーバーロードを与えた板曲げ疲労試験を行い,圧縮残留応力の導入により改善された疲労強度に,圧縮のオーバーロードが与える影響を確認することができた.また,圧縮残留応力を熱膨張で簡易に与え,1回の圧縮のオーバーロードの載荷と除荷をモデル化した弾塑性有限変位解析を行い,圧縮のオーバーロードが圧縮残留応力に与える影響について評価した.さらに,他の構造詳細として,カバープレートやストップホールに対しても,溶接したままの板曲げ疲労試験,圧縮残留応力を導入した状態の板曲げ疲労試験を一部行った.このように,本研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,面外ガセット溶接継手と異なる構造詳細に対して,同様に溶接したままの板曲げ疲労試験,圧縮残留応力を導入した状態の板曲げ疲労試験および圧縮残留応力を導入した後に様々な大きさの圧縮のオーバーロードを与えた板曲げ疲労試験を行う.そして,圧縮残留応力の導入による疲労強度改善効果に,圧縮のオーバーロードが与える影響に対して,構造詳細の違いによる影響も確認する. また,発生した疲労き裂を叩いて閉口させて疲労寿命を延命させる工法(ICR処理)をこれまでに提案している.この工法もき裂部分に圧縮の残留応力を導入してき裂を閉口させているので,圧縮のオーバーロードの影響を受ける.そこで,疲労き裂が発生した面外ガセット溶接継手を利用して,き裂発生後にICR処理を行い,さらに圧縮のオーバーロードを与えて,圧縮のオーバーロードがICR処理により閉口したき裂の余寿命に与える影響の確認も行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費としては,今年度も引続き疲労試験を実施するため,試験に必要な試験体製作費とその実験に必要なひずみゲージ費用を計画している. また,旅費として,研究の最新の情報の入手のための委員会や講習会への参加,研究成果発表としてシンポジウムに参加することを想定している.さらに研究成果投稿として,論文の投稿費も考えている. 疲労試験に対しては,学生アルバイトをお願いする予定である.
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