本研究では,土木建築分野の鋼構造物の接合によく用いられている高力ボルト摩擦接合に着目し,その接合面の表面処理方法を変化させて,それらのすべり係数を定量的に評価するために,機械分野のトライボロジー理論の考えを取り入れて,表面状態の計測(表面粗さ,硬さなど)およびすべり実験を行った.実験は2種類行い,より詳細に表面性状を計測する小型すべり実験,および実際のボルト接合を模擬したすべり実験を行った. 得られた研究成果として,表面処理がショットブラストのみの場合,既往の結果と同様に,算術平均粗さパラメータRaで評価することが,すべり係数を精度よく推定できることがわかった.次に,接合面の表面処理がアルミ溶射の場合,導入軸力の違いによって,すべり係数が大きく変化することがわかった.これは,高圧縮下では,アルミ溶射同士の凝着力が大きくなり,高圧力域では塑性化し一体化したためと考えられる.表面処理が赤錆の場合でも,同様の傾向が見られ,ここでも,接合表面に付着している錆が圧縮され,高密度となることにより,圧縮力の大きい条件下では錆そのもののせん断抵抗力が大きくなったものと考えられる.無機ジンクリッチペイントの場合,軸力の違いによるすべり係数の変化がほとんどなかったことやすべりの発生要因がペイントの凝集破壊であったことから,すべり係数はペイントの材料特性に大きく依存すると考えられる.ただし,低軸力下では,上述したアルミ溶射や赤錆と同様の結果となる可能性も考えられる. 今後は,膜厚や錆厚を変化させた実験を行うことで,それぞれの表面処理におけるすべり係数の一般的な傾向を検討する必要がある.
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