研究課題/領域番号 |
23760436
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西村 聡 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70470127)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 地盤工学 / 粘土 / 変形特性 / 自然構造 |
研究概要 |
本研究は、硬質粘土の剛性異方性の由来を同定し、異方性と堆積環境・堆積後続成作用の関係を評価することを目指すものである。平成23年度は、この目的を達成するための精密試験装置の開発が完了し、全方向のひずみを0.0001~0.1%までの幅広い領域において0.00001%のオーダーで解像することに成功した。粘土の排水プローブ試験に必要な時間(数時間のオーダー)において安定してこの精度を保つシステムの運用は、世界でも1~2研究機関においてしか報告されておらず、試験技術の向上に大きく寄与するものである。試験は1回あたり1~2カ月を要する長期試験であるが、これまで関西国際空港から得られた正規圧密粘土について2回の試験が完了している。これらはどちらも正規圧密粘土ながら、深度が異なるため強度は大きく異なる。しかし、どちらの試料も、原位置主応力の方向が全く異なるイギリスの過圧密粘土と比較して、異方性のパターンが非常に類似していることがわかった。これは、例えば高い排水変形係数比(Eh/EhやGhh/Gvh)や非常に小さなポアソン比群などに表わされる。この結果から現時点で推測されるのは、少なくとも高塑性粘土においては、堆積の時点で異方性の度合いは概ね決定しており、その後の作用の影響が小さいということである。この知見は、室内再構成粘土においては従来からいくらかの研究により報告されているが、異なる度合いの自然構造を有する粘土に対しこのような発見が報告された例は少ない。現在、自然構造を考慮するために土の弾塑性構成モデルが活発に議論されているが、モデルのシャーシ部分となる弾性変形係数に対する自然構造の影響・応力依存性に関しては、データが少ないために議論さえされる機会が少ない。ここまでの知見は、自然粘土においても、異方性まで含めた剛性挙動を従来のモデルを拡張して比較的単純に記述できる可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の進捗目標として、室内試験設備の開発と整備に重点を置き、新しい手法で粘土試料の異方剛性を正確に定量化する技術を確立することを設定していた。入念な装置設計と性能試験を通して、この目標はほぼ完全に達成された。現在は同システムをもう一式整備することにより、試験の遂行速度を向上する段階にまで至っている。セメント改良粘土などを用いた性能試験から、土の異方性の発現に関する新しい知見も得られており、この内容に関する論文は既に地盤工学会研究発表会に投稿済みである。日本・イギリスの自然粘土試料(それぞれ3種類および4種類の計7種類)の調達も完了しており、室内試験に関しては、今後も試験を順調に進められる目途が立っている。一方、イギリスのインペリアルカレッジや港湾空港技術研究所への訪問、韓国ソウルで開催された国際会議IS-Seoulへの参加、そこでの情報収集を通してこれらの試料のバックグラウンドデータも取得してあり、平成24年度において試験結果を適切に解釈し、有用な形で学術界に還元する準備を行っている。これらの進捗状況は、調書・申請書に記した計画とほぼ同じペースである。しかし一方で、東日本大震災により、協力者である民間企業との地盤調査・試料採取が昨年度は中止となり、民間企業側の人員配置・予算削減などの理由から今年度も実施される目途が立っていない。この点に関しては研究の重点の微修正を行う必要が出てくる可能性もある。以上を総合すると、想定外の災害により一部遂行できなかった活動はあるものの、研究の核となる室内試験は順調であり、全体として研究は概ね順調に進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
室内試験に関しては、現在行っている精密微小プローブ三軸試験を軸として、調達済みの試料について調査を行っていく。想定したよりも試験にやや長い時間がかかることがわかったので、調書に記したように、同様の試験機をもう一台整備することにより効率化を図る。データベースの範囲を広げるため、大阪の千里丘陵や札幌の野幌丘陵などの洪積粘土について調査・試料採取を想定していたが、先に挙げた理由により、この作業については実施できる目途が立っていない。今後もその機会を模索していくが、一方で、既に調達済みの東京湾粘土や大阪湾粘土など、軟弱粘土の試験にもある程度重点を置いて調査を行うことで、それらとの比較を通して硬質粘土の特徴を解明していくことも現実的な研究の代替ルートとして検討している。また、画像解析を用いた精密変形測定可能CRS試験などといった新規の試験方法の開発を別途行っており、これらを用いて上記の精密三軸試験から得られた変形パラメタの確認・補完を行う。年度末には、粘土の包括的な異方剛性モデルを提案するとともに、そのパラメタを同定する手法を、厳密手法・簡易手法などにクラス分けして提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
先述の理由により、地盤調査・試料採取のフィールドワークが中止となったために、平成23年度の使用分予算のうち約2割強が平成24年度へと繰越しとなった。これと平成24年度新規交付分を合わせて、平成24年度の研究費使用用途を以下のように想定している。支出の中で最も大きな割合を占める予定であるのが物品費であり、先述のように精密三軸試験の第1号機において満足のいく性能が確認できたため、同様のシステムを複製する。このために、各種センサー・周辺部品が必要となり、これらの購入に約80万円程度の使用を想定している。また、実験が軌道に乗り始めていることから、試験に必要な各種消耗品の購入量・頻度が増えることが想定され、これに約20万円を予定している。フィールドワークのために30万円を想定しているが、先述の通り、その実施可能性は未定のままであるので、夏頃を目途に、これを装置整備代に回すか検討する。試料提供元であり、それらのバックグラウンドデータを保有している港湾空港技術研究所との情報交換のための旅費や、成果報告のための国内会議出席のために約20万円が必要である。次年度は現時点では国外旅費は想定していない。これに成果報告・印刷に必要な諸経費を合わせて、交付される研究費を全て使用する予定である。
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