本研究では、自然堆積粘土がどのような地質過程を経て現在の構造を発達させ、それがどのように力学挙動に影響するのかを調査するため、大阪湾および琵琶湖畔から5種の海成・淡水性粘土を採取し、微小ひずみ域での剛性とその異方性を包括的に調査し、軸対称異方弾性理論に基づくモデル化を行った。また、各種試験・測定方法の妥当性を厳密に評価し、新たな測定方法を提案した。 自然試料と再構成試料を比較した結果、異方構造は粘土の鉱物組成など本来的性質にのみ依存し、堆積環境・堆積年代およびその後の地質作用の影響はほとんど受けていないことがわかった。よって、原位置での異方構造を知るには、試料撹乱の影響などに過度に注意する必要はないという知見が得られた。また、全てのケースで異方性には粘土特有の共通パターンがあり、原位置測定が容易な鉛直面内せん断剛性Gvhを求めれば、他の変形モードでの剛性もある程度定量的に推定することが可能であることがわかった。 各剛性パラメタの有効応力への依存性についてもモデル化を行い、そのモデル定数を決定した。応力への依存性を表わすパラメタは、年代が古い洪積粘土では小さい一方で、沖積粘土では大きく、また再構成粘土のそれとの差異もなかった。よってこのパラメタは、地質年代とともにわずかながら発達していくセメンテーションの新しい指標に用いることができると考えられる。 本研究は、特定の変形モードのみについて部分的に測定されてきた剛性パラメタ群を、全てのモードに対し包括的に測定し、複数の粘土間で比較を行った初めての例であり、今後様々な土質試料に同様の方法論を適用することによりデータベースを構築する手始めになる成果をあげた。
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