低温液化燃料の岩盤内貯蔵施設を設計するための熱伝導解析では,その基本的物性として水や氷が内在する岩盤の熱物性値(熱伝導率,熱拡散率,比熱)を把握する必要がある。本研究では,研究代表者らが常温における岩石の熱拡散率測定の有用性を実証した任意加熱法を用いて,0℃以下における湿潤岩石(飽和含水状態の岩石)の熱拡散率の測定を試みた。供試岩石は,荻野凝灰岩(有効間隙率28.7%),来待砂岩(20.2%),姫神花崗岩(0.97%)である。以下に得られた知見を示す。 1.-25℃における湿潤岩石の熱拡散率の測定を試み,その測定精度を検証した。湿潤岩石の熱拡散率は,荻野凝灰岩で0.57±0.038mm2/s(標準誤差±3.8%),来待砂岩で0.64±0.034mm2/s(±2.0%),姫神花崗岩で1.73±0.060mm2/s(±3.5%)となり,任意加熱法を用いることで概ね誤差3%の再現性で計測可能である(1供試体3回計測の場合)。 2.間隙水の未凍結状態から凍結終了以降までの温度範囲(0℃~-100℃)において,間隙率の大きい砂岩と凝灰岩の熱拡散率を連続的に測定し,その変化挙動を明らかにした。湿潤砂岩の熱拡散率は,間隙水の凍結に伴い0~-20℃で微増し,その後-20~-50℃で急増し,その後-50~-90℃でほぼ一定となる挙動を示し,温度依存性が確認できる。一方,湿潤凝灰岩および乾燥砂岩,乾燥凝灰岩では,温度の低下による熱拡散率の変化(増減)は確認できない。 3.岩石を粒子分散系複合材料と仮定し,乾燥岩石・湿潤岩石・凍結岩石の熱拡散率推定式の提案を試みた。砂岩と花崗岩の岩石-間隙水系については,本研究で提案した推定式の適用が可能であることが示唆される。一方,凝灰岩の岩石-間隙水系については分散系とは異なる推定式を立てる必要がある。
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