研究課題/領域番号 |
23760449
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工 |
研究代表者 |
平川 大貴 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, システム工学群, 助教 (40372990)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 盛土 / 降雨時安定性 / 補強 / 排水 / 浸食 / ジオシンセティックス |
研究概要 |
気候変動に伴う降雨強度や降雨量の増大は既に顕在化しており,社会基盤構造物である盛土構造物の降雨による被災はますます増加すると予想される。本研究では,経験的に特に降雨時安定性の低い斜面上にある盛土構造物の耐降雨性能を向上させる方法を検討・提案するものである。 盛土構造物の降雨時挙動は,外力条件(盛土内へ浸透する雨水量や浸透圧,地表面水の量など),境界条件(盛土内地下水位面の変動と,それに伴う浸透圧の変動など),および盛土材の物性変化(飽和化による土の力学物性の変化),が逐次変化していく極めて複雑で進行的な境界値問題である。したがって,斜面上盛土の降雨時安定性を抜本的に向上させるためには,降雨時において盛土構造物を不安定化させる主要因を同定し,その対策を思考することが重要となる。 まず初年度(平成23年度)では,1G場での降雨浸透実験を実施して崩壊要因を同定した。この結果,A)地山あるいは周辺地盤からの盛土内に浸透した雨水による盛土内浸透圧の上昇,およびB)法表面を流下する地表面水による浸食,が降雨時において盛土の変状・崩壊に大きな影響を与えることが確認された。一方,構造物には新設および既設構造物に大別される。新設構造物に比べて既設構造物は適用できる対策が限定される。本研究では新設・既設構造物のそれぞれに対して有効な降雨対策を検討するものであり,初年度(平成23年度)では新設構造物に対して検討を行った。この結果,上記要因A)に対しては,不安定化しやすい法尻部に対してジオシンセティックス補強盛土で補強しつつ,メンテナンス可能な二重管パイプを水平排水工として設置して盛土内地下水位面と浸透圧を制御することが極めて有効であることが分かった。要因B)に対しては,法表面にジオシンセティックスによる浸食防止材を敷設する事で,地表面水による浸食を大幅に抑制できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土構造物の降雨時安定性に対する検討は多くの研究がなされ,それぞれの設計マニュアルにおいても様々な降雨対策が記載されている。しかしながら,現状では毎年多くの土構造物が降雨によって被災しており,対策の効果は不十分なものであると言える。これは,降雨時において盛土構造物を不安定化させる要因の同定が不十分であるためであると考えられる。本研究では,室内模型実験および室内変形強度試験を実施することによって,降雨時において盛土構造物を不安定化させる要因の同定し,総合的で効果的な対策の方法を確立した。特に排水に対して,降雨の影響は降雨終了後においても長時間継続する事を実験的に明らかにし,土の補強だけでなく,水平排水材を設置して積極的な排水・盛土内地下水面の制御を行うことの重要性を指摘できる知見を得た。 さらに,現状では降雨対策と地震対策は個別に実施されており,降雨対策には積極的な技術革新がされて来なかったという大きな問題がある。本研究の主目的は盛土の降雨時安定性を向上させる方法の提案であるが,本研究で検討した土の補強と排水材の併用は土構造物の耐震性能の向上にも有益な知見であり,本研究で得られた知見は土構造物の耐降雨性能と耐震性能の両方を同時に向上できる対策技術の進歩に貢献できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度(平成23年度)では,まず新設構造物(新規建設および被災によって再構築される構造物)を対象として検討を行った。次年度(平成24年度)においては,既設構造物に対して検討を行う。すなわち,既存の土構造物を供用しつつ,土の補強,盛土内地下水面と盛土内浸透圧の制御を行うための排水材の設置を行って,土構造物の耐降雨性能を向上させる方法を検討・提案する。既設構造物に対しては,施工順序および排水材の長期メンテナンス性についても検討を行う予定である。 2年間(平成23年度~24年度)の成果をとりまとめ,経験的に特に不安定であることが知られている斜面上の盛土の降雨災害リスクを低減させる方法を提案したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
排水材の長期使用による経年劣化を議論するため,透水試験装置の拡充を予定している。また,室内模型実験に対して,盛土内の地下水面上昇が盛土自体の支持力の低下に直結していることを明確にするため,載荷装置の調達を予定している。 室内模型実験および土の室内変形強度試験を効率的に実施するため,実験アルバイトを1名確保したい。
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