研究課題/領域番号 |
23760461
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安田 誠宏 京都大学, 防災研究所, 助教 (60378916)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 全球気候モデル / 高潮 / 将来気候 / 熱帯低気圧(台風) / 日本沿岸 |
研究概要 |
気象研究所の超高解像度全球気候モデルGCMの2次元気象場データを用いて、直接高潮シミュレーションをした。熱帯低気圧の存在期間の海面気圧および海上風を駆動力として与えた。高潮モデルには、Kimら(2008,2010)による潮汐・高潮・波浪の相互作用を考慮した双方向結合モデルSuWATを用いた。本研究では、計算コスト軽減のため波浪計算は行わず、非線形長波モデルを基礎式とした高潮計算モジュールのみを用いた。北西太平洋及び日本沿岸を解析対象とし、3階層のネスティングスキームを適用した。高潮計算に用いた台風は北西太平洋領域を通過したものとし、それらの個数は、現在気候で190、将来気候で127であった。台風ごとの最大高潮偏差の計算結果を極大値資料とし、極値統計解析を行った。極値の分布関数にはグンベル分布を用い、プロッティング・ポジション公式にはGringorten公式を用いた。再現期間は、GCMのデータ期間の25年と、50年および100年とした。瀬戸内海領域では、現在気候においては、周防灘における高潮偏差の再現確率値が最も大きく、燧灘および播磨灘の小豆島以西においても大きい。将来気候では、周防灘での再現確率値が、現在気候に比べて大きく増大する。また、燧灘では将来予測値は現在気候よりも小さくなったが、反対に、安芸灘および斎灘では大きくなった。関東~東海領域の現在気候では、東京湾で最も大きく、次いで、伊勢湾西部および三河湾で大きくなった。将来気候では、東京湾における将来変化よりも、伊勢湾、三河湾での増大傾向が顕著であった。現在気候で推算された房総半島東海岸や伊豆諸島周辺海域のピークは将来気候では現れず、遠州灘や熊野灘において大きくなった。このように将来気候における高潮偏差は、台風強度変化によって一様に増大するのではなく、台風のコースに応じて強い海域依存性があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には,全球気候モデル出力結果を用いた直接高潮シミュレーション,メソ気象モデルによるアンサンブルダウンスケール実験,非構造格子高潮モデルの開発を行う計画であった。全球気候モデル結果を入力条件とした直接高潮計算については,GCMの出力結果のうち,海面更正気圧と海上風を用いて,直接高潮計算を実施した。また,高潮計算を実施する前に,現在気候実験の気圧および海上風について,沖合での観測値と比較することで,GCMのバイアス評価をし,その再現性が十分にあることを確認した。直接高潮計算結果については,高潮の現在予測結果と将来予測結果が得られ,本研究の主たる目標の6割以上は達成できたと考えている。メソ気象モデルによるアンサンブル・ダウンスケール実験については,計算負荷が予想以上に高く,計算を継続中である。非構造格子高潮・波浪モデルの開発については,高潮モデルのみでの計算はできるようになった。伊勢湾台風を対象に再現計算を行ったが,直交格子モデルよりも過小評価になる結果が得られており,モデルの有用性が見い出せていない。引き続きモデルの開発,改良を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
複数の領域気候モデルRCMによる気候変動実験結果を用いて,アンサンブル高潮計算を行い,推算値のゆらぎ幅,すなわち高潮の将来変化予測の不確実性を評価する。高潮モデル自体の不確実性を調べるため,高潮モデルの風速に対する海面抵抗係数を変えたアンサンブル実験も行う。さらに,台風経路の不確実性を評価するため,経路や進行方向,進行速度を変えた実験も行い,高潮予測に内在する予測不確実性を示す。非構造格子高潮モデルについては,波浪モデルとのカップリングを試み,実用性を考慮して評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品としては,RCMデータを保存するためのRAID NASの購入を考えている.また,プログラミングソフト等のライセンス料を計上している。旅費としては,国内外の学会に出席し資料収集をすると共に,研究成果を積極的に発表する。国際会議参加費および旅費などを見込んでいる。人件費・謝金としては,データ整理やバックアップに関して大学院生に補助を依頼することを考えている。また,英語論文の校閲費を計上している。その他経費として,印刷複写費,論文投稿料等を見込んでいる。
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