研究課題/領域番号 |
23760472
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
洪 性俊 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (70512010)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 合流部 / 動的交通運用 |
研究概要 |
本研究では,慢性化している都市高速道路の渋滞の緩和策として「JCT合流部における動的可変チャンネリゼーション」を提案し,その実用化に向けた「都市高速道路ネットワーク全体の交通性能を考慮した動的可変チャンネリゼーションの運用手法」の検討と「運用における安全性の評価」の実施を主な目的としている.運用手法の検討および効果評価のためにはメソスケールの広域TS(交通シミュレーション)を利用するが,動的可変チャンネリゼーションによる局所的な効果(最大通過可能交通量の変化)の分析にはミクロTSを利用し,その結果を広域TSに反映する評価手法を提案している.これにより,動的可変チャンネリゼーションのみならず,あるITS施策を実施した際,その導入とネットワーク全体への効果との因果関係が明確になる.平成23年度は,主にこのような効果評価,最適運用手法の検討の準備を行った.ミクロTSでは,首都高速道路都心環状線の3か所の合流部を対象とし,地点別および動的可変チャンネリゼーションのシナリオ別に,本線側・合流側の最大通過可能交通量を推定した.この分析では,2車線ある本線側の合流部手前において,渋滞回避のために合流される車線から車線変更する運転挙動を再現し,より精度の高いTSが実施できたと考えられる. 広域TSでは,ミクロTSの結果を各対象合流部の交通容量として設定し,エリア流入制御手法に基づいて合流シナリオを自動的に更新するようにTSモデルを改修した.また,広域TSに必要な道路データを構築し,OD交通量としては過去に構築したデータを活用して,首都高速道路全線を対象にした動的可変チャンネリゼーションの効果を評価した.その結果,局所的には有効な合流シナリオであっても必ずしもネットワーク全体の交通性能を向上するとは限らないことが明確となり,以上の結果はネットワーク最適化の重要性を改めて示すものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミクロTS(交通シミュレーション)による局所分析で対象合流部・合流シナリオ別に最大通過可能交通量を推定したのは,広域TSにおいて必要な合流部の交通容量を定めるためである.平成23年度は対象合流部の最大交通処理能力を推定するために,本線側および合流側が混雑する場合を想定して分析を行い,広域TSにその結果を反映することができ,当初の目的は達成したものと考えられる.ところが,合流部の交通処理能力,具体的に,本線側と合流側の最大通過可能交通量はそれぞれ合流側と本線側の交通状況によるものであり,両方が混雑している状態で推定したそれぞれの最大通過可能交通量を,合流部の交通状況と関係なく一律に広域TSに適用することは適切でないと考えられる.これに関しては現在も続けて検討を行っている.広域TSに関しては少し遅れている.当初の計画では首都高速道路(株)からETCデータを入手し,広域TSで必要なOD交通量を推定することになっていた.ところが,個人情報を含むETCデータの提供手続きに遅れが生じてしまい,大橋JCT開通後の最新状況を対象にした広域TSの準備を行うことができなかった.しかし現在はデータが入手できたので,急ぎでOD交通量の推定を行っている.その代わりに平成23年度は,過去に構築したOD交通量(平成20年度)を利用して広域TSを実施し,動的可変チャンネリゼーションの効果を試算することができた.また,この広域TSのために,平成24年度に予定していた動的可変チャンネリゼーションの最適運用手法についても検討を進めたので,平成23年度の計画としては少し遅れているものの,全研究期間(2年間)から見れば順調に研究が進められていると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の局所分析では,合流部における様々な交通状況を考慮した合流シナリオ別の最大通過可能交通量の推定が遅れてしまい,その一部の成果は国際会議で発表したものの,交通状況に応じて変動する合流シナリオ別の最大通過可能交通量を適用した広域TSの結果についてはまだ発表していない.この内容については国際学術雑誌に投稿予定であり,現在,その分析と原稿執筆を進めている.当初計画より遅れていた最新のOD交通量の推定についても既に分析を始めており,この分析が完了すれば中央環状線を含む二つの環状線を同時に考慮した動的可変チャンネリゼーションの検討ができると考えている.具体的には,中央環状線を含む内側を第1エリアとして設定し,このエリアの外側から流入する交通量を制御するための動的可変チャンネリゼーションを試みる.同時に,第1エリア内においては,都心環状線を第2エリアとして設定し,第1エリア内部において第2エリアに流入する交通量を動的可変チャンネリゼーションで制御することを考えている.また,第1エリアと第2エリアの制御レベルのバランスについても検討する予定である.DS(ドライビングシミュレーション)実験による動的可変チャンネリゼーションの安全性の評価のためには,まず,海外の事例調査を行い,海外における解決策案,その効果などを検討し,具体的なDS実験の手法,評価対象を定める.現段階では,車線数が2車線から1車線に絞られる区間におけるドライバの運転挙動から安全性を評価する予定である.高速道路のJCTで動的可変チャンネリゼーションを導入した事例はないが,IC合流部において可変チャンネリゼーションを実施している事例はあるので,安全性の評価において参考になると考えられる.ただし,ICに比べてJCTでは相対的に高速走行状態での合流が行われると考えられるので,ここにDS実験の意義があると考えられる.
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次年度の研究費の使用計画 |
動的可変チャンネリゼーションを実施した国内外の事例は報告されていない.ところが,海外には可変車線のように時間帯を決めてオンランプと本線との合流部において車線運用を変更する事例がある.平成24年度は,このような海外事例調査を実施し,合流部車線運用における安全性および運用手法についてヒアリング調査を行い,JCT合流部の動的可変チャンネリゼーションにおける問題を検討するとともに,ドライビングシミュレーション実験で明確にすべき分析・評価対象を確定する.一方,現在,動的可変チャンネリゼーションの最適運用手法に関する検討に着手しており,その一部の成果を平成24年度のITS世界大会で発表する予定である.したがって,平成24年度は2回の海外出張のための旅費および会議参加費を計上している.ドライビングシミュレーション実験のためには実験シナリオの作成が必要である.シミュレータは東京大学生産技術研究所の先進モビリティ研究センターが保有しているユニバーサルドライビングシミュレータを利用する予定であるが,実験シナリオの作成にあたっては担当教員および学生の協力のもとで行う予定である.したがって,ドライビングシミュレーション実験シナリオ作成のための謝金を計上している.平成24年度は昨年度行った実績の一部を国際学術雑誌に投稿する予定であり,その投稿費用を計上している.その他,情報収集のための国内外旅費,海外調査時等に必要なビデオカメラ等の購入費用も計上している.
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