研究課題/領域番号 |
23760479
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
浅野 美帆 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80469858)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 交通工学・土木計画 / 駅前広場 / 空間構造 / シミュレーション |
研究概要 |
駅前広場や路上駐車場等を含む都市内の道路空間においては,利用者が限られた空間を最大限効率的に利用できる設計が求められる.既存の道路空間設計方法では,道路の幾何構造はあくまで設計車両が幾何的に道路空間を通行可能かのみに重点を置いており,その幾何形状内で利用者が移動や停車に必要と認知する空間の大きさや,他の利用者が既に空間を占有している状態で選択される移動軌跡を考慮していない.本研究は,移動の自由度の大きな駅前広場を対象に,空間構造や周辺利用者の存在に応じて個別の利用者が選択する占有空間や移動軌跡を,実観測データから定量的に表現し,空間の効率性を評価するシミュレーションモデルの構築を目的としている.平成23年度は,郊外型の中規模駅前広場を対象に,道路の空間制約に応じた車両の詳細な停車位置と停車に至る移動軌跡に関する実態調査を行った. 特にキスアンドライド車両について,駅に人を送る車両(送り車両)と駅から出てくる人を迎える車両(迎え車両)とに分け,それぞれの広場内での停車位置・時間特性について分析し,キスアンドライドの形態ごとに停車位置選択の選好が異なることを示した.これを踏まえて,広場の停車位置を他の車両の停車状況,障害物やコーナーの位置等から説明する離散選択モデルを構築し,簡便なモンテカルロシミュレーションにより再現性評価を行った.上記は主に非混雑時の車両挙動を対象としたが,車両停車台数が増えてくると,停車車両の右側に隣接して停車する二重停車車両が発生し,広場の通行位置閉塞による混雑につながる.停車車両の車両間隔と二重停車の発生状況について,個々の車両の詳細な停車位置や移動軌跡を元に分析を行った.また,停車時に必要な余裕幅についても,土木研究所の転回軌跡モデルと実際の車両軌跡との比較分析を行い,空きスペースの幾何形状に応じた車両の移動軌跡選択特性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,対象となる複数の駅前広場における実態調査と,他者の影響がない場合の移動軌跡選択行動に関する分析を当初の目標としていた.駅前広場における実態調査のデータを用いて,混雑していない状況でのキスアンドライド車両の停車位置・停車時間を分析し,停車位置選択の要件(駅舎入口からの距離,障害物の設置有無,コーナーの有無等)を抽出した.また,離散選択モデルにより停車位置選択の状況をモデル化した.その際,キスアンドライド車両の停車方式に応じてその選択特性が異なることなどについても示した.さらに,移動軌跡の分析では,停車位置がコーナーであるか否か,既に停車している車両の前方に停車するか後方に停車するか,といった条件に応じた停車必要空間を明らかにした.これらについては,当初の予定通り達成できたといえる. 年度当初想定していた通常のビデオカメラによるデータ撮影・分析に比べ,より効果的で精度よく対象車両を計測可能な観測機材を用いた調査を行うこととし,機材の適用性検討に時間を割いたために,年度内の調査回数が少なくなった.今後は調査地点を増やし,今回の知見をより一般化する必要がある.調査回数自体は少なくなったものの,当初の想定よりも詳細なデータ解析が取得できたことで,より精度の高い移動軌跡の分析が可能となった.さらに,調査地点のサンプルは少ないものの,元々平成24年度に実施予定であった車両同士の相互干渉の影響についての検討も一部行い,二重停車する要件等を整理した.以上,総合的に判断して,ほぼ当初の予定通りの進捗状況であるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,昨年度の追加現地調査を行うとともに,主に車両同士の相互干渉を考慮した挙動について分析を行い,平成23年度の知見とあわせてモデルの一般化を図る.1.駅前広場追加調査とモデルの改良:平成23年度に実施予定であった観測調査を追加で行う.ビデオ観測データから,画像処理システムを用いて個別の利用者の詳細な移動軌跡を抽出する.この調査データと既に実施した調査・分析結果をもとに,非混雑時の停車位置選択行動の一般化を図る.2.混雑時の駅前広場調査:交通量が増加した場合の他車両との相互干渉を調べるための観測調査も同様に実施する.画像処理システムを用いて,個々の車両の移動軌跡と停車位置の座標データを抽出する.3.余裕車間距離と二重停車決定要因の分析:土木研究所の転回軌跡モデルを援用し,縦列停車時の余裕幅員,車両幅について,カーブ半径等の幾何構造,他の車両の停車位置との関係から説明するモデルを構築する.交通量が増加した場合の二重停車行動選択も,2.で取得したデータを用いてモデル化する.4.キスアンドライド車両挙動モデルの構築:停車位置・車線選択,移動軌跡,停車時間選択のそれぞれの要因を統合し,キスアンドライド車両の広場内挙動を詳細に説明するシミュレーションモデルのプロトタイプを構築する.実観測データとの比較により,再現性を検証し,改良すべき課題を抽出する.
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次年度の研究費の使用計画 |
年度当初想定していた通常のビデオカメラによるデータ撮影・分析に比べ,より効果的な観測機材が見つかった.そのため,当初予定していたビデオカメラを購入する必要がなくなる一方,調査実施時の機材レンタル料が必要となった.その観測機材による撮影方法及び適地の検討に時間を要したため,二度の調査を行う予定のところを一回の調査となった.これらのことから,次年度への繰越が発生した.平成23年度に実施した調査方法を踏まえて,当初平成23年度に実施予定であった同様の調査を平成24年度に実施する.機材レンタル料,および調査・データ分析にかかる謝金として繰越分を利用予定である.また,平成24年度予算は,当初予定していたとおり,車両同士の相互作用を分析するための比較的混雑した広場での調査費用(機材レンタル料等)に用いる.そのほか,分析用の謝金,成果発表旅費等に充てる予定である.
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