研究課題/領域番号 |
23760484
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 正光 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10402968)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | リスク分担 / オプション / 建設契約 / ジョイントベンチャー |
研究概要 |
本研究では、取引特殊性という公共調達契約の特殊性を鑑み、オプションの相互保有という構造を有したリスク分担の意義、機能、実務的可能性について検討することを目的としている。まず初年度は、どのような条件の下で、最適なリスク分担が、問題意識の中で示したような「オプションの相互保有構造」として導かれるかを明らかにするための、プロトタイプモデルを開発することから始めた。上述では、契約関係の拘束性の強さ、投資の取引特殊性という観点から公共調達契約を特徴付けた。ただし、発注者である公共主体と元請企業の間で締結される元請契約と、JV企業の間で締結されるJV契約は、それらの特徴を共通して有しているものの、契約上で連帯責任が明記されているJV契約は、元請契約よりも、さらに契約関係の拘束性が強い契約と見なすことができる。したがって、初年度では、JV契約を分析対象として、リスク分担構造を定式化し、効率的なオプションの保有構造を導くことを目的とした。建設請負契約の特徴は、原則として契約の破棄が認めらない点にある。すなわち、企業は破綻しない限り、請負契約で義務づけられた工事を完成させる必要がある。一方、企業の破綻がいったん破綻すれば、代替的な請負者の選定や事業完了の遅延といった、無視できない追加的費用が発生する(取引特殊性)。一方、JV契約では、契約当事者が相互に相手方の契約不履行の責任を負う連帯責任制度が採用されている。このとき、パートナー企業が大規模なリスク負担の結果、破綻リスクに直面する場合には、リスク負担が比較的小さい企業が自発的にパートナー企業のリスクの一部を負担するインセンティブが発生する。したがって、1)建設事業に特有の取引特殊性と2)JV契約の連帯責任制の下では、オプション型リスク分担構造が、ゲームの均衡として導かれることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、JV契約におけるオプション相互保有構造が導かれるための本質的条件を明らかにすることが目的であった。平成23年度では、公共調達契約の特徴である取引特殊性とJV契約を定義づける連帯責任制度という2つの取引上の条件によって、JV構成企業のリスク負担構造がオプション型になるという帰結が理論的に導かれた。また、オプション型契約が請負企業の破綻の可能性に伴う破産の外部費用を軽減するために有効であるという政策的示唆も導かれており、当初の研究計画で予定していた内容を網羅している。また、平成23年度に構築したモデルは、24年度以降の元請契約及びパートナリング契約といった契約形態を分析する上での、ベンチマークとなり、研究計画を進める上での道具立ては揃ったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
元請契約におけるオプション相互保有構造モデルの開発:元請契約におけるオプション相互保有型のリスク分担構造モデルを開発する。元請契約も、建設工事の場合、途中で取引をやめる(工事を破棄する)ということがないため、契約関係の拘束性は強い。しかし、JV契約とは異なり、契約書において連帯責任が明示されているわけではない。元請契約とJV契約のこの点の違いが、オプション相互保有構造の機能に対して、どのような影響を及ぼすのかについて分析を行う。新たな公共調達契約(元請契約及びJV契約)への実務的提言:本研究は、理論的な分析がメインであるが、期待される分析結果は、実務上の契約のあり方を考える上で、新たなリスク分担に関する重要な政策的示唆をもたらすと期待される。特に、伝統的な標準契約約款とは異なる、パートナリングを含む新たな契約概念を提示することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の遂行にあたり,特段の施設・設備を必要としないが,収集した文献や情報を収集し、保管、分析するためのコンピューター及び記録媒体が必要である。研究資料としては,ゲーム理論、特に契約理論、金融理論に関連した書籍、文献が必要である.既述の通り,成果発表は学術論文への投稿論文が基本であり,論文の投稿料,別刷りのための経費が必要である.また,学会においても研究成果を継続的に実施する必要があるため,国内・海外出張のための旅費が必要である.特に,近年、国際的な建設事業で用いられているパートナリング契約に関する実務的,学術的議論の動向についてフォローするために,各国における国際会議への参加を計画している.また,本研究においては,高度なデータ処理は行わないものの,関連文献の収集に当たっては,学生によるアルバイトを活用する予定にしており,そのための謝金が必要となる.また,随時,専門的な知識を有する実務家に対するヒアリングや講演依頼を行うことを予定しているため,専門知識の供与に対する謝金も必要となる.
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