研究課題/領域番号 |
23760484
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 正光 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10402968)
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キーワード | リスク分担 / オプション / 元請契約 / 公共調達 / ジョイントベンチャー |
研究概要 |
本研究では、取引特殊性という公共調達契約の特殊性を鑑み、オプションの相互保有という構造を有したリスク分担の意義、機能、実務的可能性について検討することを目的としている。初年度は、どのような条件の下で、最適なリスク分担が、問題意識の中で示したような「オプションの相互保有構造」として導かれるかを明らかにした。具体的には、1)建設事業に特有の取引特殊性と2)ジョイントベンチャー契約の連帯責任制の下では、オプション型リスク分担構造が、ゲームの均衡として導かれることを示した。以上の結論は、ある建設事業を請け負うために組成されたジョイントベンチャー契約を対象としており、その最大の特長である連帯責任制を前提として導かれた結論である。 一方で、近年では公共調達の分野においても、元請契約を対象にパートナリング契約のように、伝統的な建設契約とは異なる形態の契約が試みられている。発注者である官と受注者である民の間の伝統的な建設契約では、ジョイントベンチャー契約とは異なり、連帯責任制が存在しているわけではない。さらに、建設工事では、請負者に特殊技能といった取引特殊的要素がない限り、発注者にとって建設業者は代替可能なプレイヤーとなる。また、請負者が履行不能に陥った場合の履行保証の存在している。このとき、伝統的な建設契約に基づく元請契約では、オプションの相互保有構造のリスク分担は導かれない。その結果、ジョイントベンチャー契約のような連帯責任制が存在する契約よりも、請負者に対して多くのリスクが帰属することを理論的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成24年度は、「元請契約におけるオプション相互保有構造モデルの開発」を課題としていた。具体的には、元請契約におけるオプション相互保有型のリスク分担構造モデルを開発する。元請契約も、建設工事の場合、途中で取引をやめる(工事を破棄する)ということがないため、契約関係の拘束性は強い。しかし、JV契約とは異なり、契約書において連帯責任が明示されているわけではない。元請契約とJV契約のこの点の違いが、オプション相互保有構造の機能に対して、どのような影響を及ぼすのかについて分析を行うことを目標としていた。研究実績でも記載したとおり、計画方針に則り、元請契約におけるリスク分担構造を明らかにしている。以上の知見は、次年度の元請契約でパートナリング契約を導入する価値を示すためのベンチマークを与えてくれる。以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。ただし、成果を論文の形で公表するに至っておらず、次年度の課題として認識している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、現行の元請契約のリスク分担構造をモデル化し、請負者に帰属するリスクが決まるメカニズムとその経済的影響について明らかにしている。一方、すでに計画に記載したとおり、パートナリング契約といった新たな公共調達契約が提案されている。パートナリング契約では、これまでの契約とは異なり、官と民の間の立場を互いにパートナーとみなし、責任を共有しながら事業を実施していく。すでに、連帯責任制がもたらす効果については初年度で明らかにしており、元請契約におけるパートナリング契約の概念、定式化を行うことにより、その経済的意義について明らかにする。
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