国及び地方の財政が逼迫する中、公共調達の効率化が要請されている。公共工事では、原則として取引関係が破棄されることはなく、強い契約関係の拘束性を有している。また、ジョイントベンチャー契約においても、連帯責任制度による強い契約関係が存在している。既存の契約理論に関する研究では、このような公共調達契約の特殊性は考慮されていない。本研究では、このような公共調達契約の特殊性が、「オプションの相互保有」というリスク分担構造によって特徴付けられることに着目した。その上で、「オプションの相互保有」のリスク分担の意義、機能、実務的可能性について検討することを目的とした。 分析の結果、オプションの相互保有によって、契約当事者間でモニタリングを行うインセンティブがもたらされる。その結果、請負者の破綻リスクという市場保険で付保できないリスクがヘッジ可能になることが判明した。また、その結果、リスクプレミアムの軽減を通じて、公共調達の効率化を実現できることを指摘した。本研究が着目したオプションの相互保有によるリスク分担は、既存のリスク分担原則とは著しく異なる形式である。むしろ、オプションの相互保有構造は、近年、海外において普及しつつあるパートナリングと呼ばれる契約形態に近い。パートナリングでは、お互いに責任を押しつけ合うような構造の伝統的な請負契約とは異なる。パートナリング契約が機能するためには、事業遂行にあたり、相互モニタリングを通じたリスク情報の共有が必要である。本研究により、ともすれば精神論で語られるパートナリング契約の成功要因が、契約当事者間の透明性に基づく信頼関係であることを理論的に指摘した点で、本研究の実務的意義がある。
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