平成23年度と平成24年度に構築してきた,物流業をほかの産業と同様の生産関数を持つ形で定式化した多地域応用一般均衡モデルの改良を行った.各地域に地域間貨物の通過点である港湾が1つずつ存在し,対象地域全体に物流業が1つ存在する状況を想定した.モデルの改良においては,特に物流業の表現方法,物理量である地域間輸送量と金額で表現される地域間交易額の関係付けに重点を置いて改良を進めた.生産関数としてはパラメータ推定の容易なCobb-Douglas関数を採用した.構築したモデルをデータの充実している国内都道府県間の取引・流動に対して適用し,再現性や感度を確認しながらパラメータの推定方法および値の妥当性を確認した後,日米欧州アジアの多国間においてモデルを適用した.具体的には,関税政策変化,港湾整備に伴う輸送費用の低下および輸送容量の増加,国際物流業の合併による生産性向上,船舶の大型化による効率性向上,海運業に対する税制の変更,船員の国籍自由化,内航海運の市場開放といった政策や市場環境の変化を想定してモデルを適用し,結果の考察を行った.また,地域間輸送において,複数の輸送経路が利用される状況を想定して,積み替えを考慮した貨物量配分モデルと,荷主の港湾選択モデルの2つのモデルを構築し,それらの結果を多地域応用一般均衡モデルの入力として利用するためのモデル間の想定の整合性の検討を行った.以上,別々に構築した3つのモデルは,それぞれ妥当な精度が得られている.各モデルの出力結果を他モデルに入力し,その結果をさらに元のモデルにフィードバックする形で繰り返し計算を行い,モデルの挙動を確認した.現実的なパラメータの下では,常に結果が収束することが確認された.
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