本研究では,今後の交通管制システム高度化に資するために,大規模で長期的に観測された各種交通情報を組み合わせることにより交通現象診断モデルの構築を行った.具体的には,ベイジアンネットワーク技術を活用し,対象とする道路区間において発生する事象間の因果関係をネットワーク化し,交通事故や渋滞等が発生する確率を発生原因となる要因間の条件付き確率として推計するモデルの構築である.条件付き確率は,高速道路上で蓄積されている車両感知器データから交通量,交通密度,速度の傾向を学習し推計するものとした.なお,ベイジアンネットワークの事象間の因果関係については,Zhangらが構築したモデル構造を参考に構築した.構築したモデルを用いて本年度は,モ構築したモデルによる交通事故による渋滞状況検知の精度検証を行った. 構築した交通現象診断モデルの適用には,首都高速道路でも事故発生件数が比較的多い4号線上り方面の区間とした.交通量,交通密度,速度,突発事象の有無のデータは,首都高速道路上に多く設置されている車両感知器のデータを用いた.本研究では,2006年6月~2007年3月に収集されたデータを用いた.なお,ベイジアンネットワークにて各事象の発生確率を推定するための学習には2007年2月までのデータを,モデルの精度検証用データには2007年3月のデータを用いることとした.モデル検証の結果,交通事故による渋滞の検知率は約40%程度であった.これは,検知する事象の定義等によって直接の比較は難しいものの,既存の研究において首都高速道路の交通事故検知に関する研究結果と同程度であった.今後,より検知の向上させる為に,予測時点の状況をより加味できる変数の導入や,ベイジアンネットワークに導入する変数の離散化の方法を変える等の工夫をする必要がある.
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