研究課題/領域番号 |
23760496
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研究機関 | (財)運輸政策研究機構運輸政策研究所 |
研究代表者 |
室井 寿明 (財)運輸政策研究機構運輸政策研究所, その他部局等, 研究員 (00516031)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 首都直下地震 / 交通マネジメント / 鉄道 / バス |
研究概要 |
(i)阪神・淡路大震災時の事例分析 阪神・淡路大震災時の運行バス台数,輸送人員,運行ルート,所要時間,要員・用地の確保等のデータを入手し,入手したデータの加工および代行バス運行による成果と課題の分析を行い,当時の代行バスを含めた公共交通における成果と課題の抽出を行った.その結果,(1)調整の場の設置による早期運行開始,(2)バス専用レーンと直行便導入による輸送効率の改善,(3)乗降場の工夫による輸送力向上,(4)被災地外からのバス車両・運転士の応援,(5)効果的な代行バス運行路線の設定により,バスによって鉄道に近い輸送力を実現したことが分かった.(ii)首都圏の代行バス運行事例の調査・推計 阪神間と,首都圏の中でも特に京葉間に着目し,鉄道網の特性を比較した.京葉間は阪神間よりも需要が圧倒的に大きいことから,バスだけでの輸送は阪神間以上に難しく,鉄道との組み合わせが重要になることが分かった.また,阪神間は東西方向に郊外路線がほぼ並行にあるのに対し,首都圏では並行する郊外路線だけでなく,放射状に延びる郊外路線に加え,輸送力の高い複線の環状鉄道も整備されている.したがって,運行可能な鉄道とセットで代行バスを検討する余地が大きく,鉄道とバスの組み合わせでより大きな輸送力が確保できると考えられ,鉄道との組み合わせによるネットワーク化が重要である.阪神間では,JR・阪急・阪神がほぼ並行するような形のため,例えばJRが途絶しても2km以内には阪急ないし阪神の駅が利用できる駅が約8割であることから,徒歩による他路線への乗換でもネットワーク化が可能であった.これに対し京葉間では,他路線への最寄駅まで2km以内にある駅は4割にも満たず,鉄道の長期途絶時におけるネットワーク化にあたっては,異なる鉄道路線を結ぶバスがより重要になるといえることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で当初予定していた,平成23年度実施内容として設定した阪神・淡路大震災時の事例を整理した.具体的には,阪神・淡路大震災時の運行バス台数,輸送人員,運行ルート,所要時間,要員・用地の確保等のデータを入手することができた.入手したデータの加工および代行バス運行による成果と課題の分析を行い,当時の代行バスを含めた公共交通における成果と課題の抽出を行った.その結果を踏まえ,首都直下地震発生時において鉄道の運行が長期間運行できない場合に対して,首都圏特有の課題を明らかにした.具体的には以下の5つの課題が明らかとなった.(1)輸送力向上のための方策として,(1)乗車時間の短縮,(2)列車方式での運用,(3)編成化空間の確保,(4)バス専用レーンの設置,(5)交差点容量の考慮,(6)幹線道路上の停留所設置,(7)直行便の導入,(8)他社線接続の運行ルートの8点が必要である.(2)また,鉄道が被災することによって,徒歩や自転車など他の交通機関による利用が著しく増加するため,道路渋滞が深刻化し,バス専用レーンの設置以外にも適切な交通信号制御や交通管理による対策が必要である.(3)阪神・淡路大震災時と比較し,大手鉄道事業者の関連バス事業者が保有するバス台数および所属運転士が減少しており,関東地方に留まらず全国から幅広く多数の事業者から応援を要請する必要があり,統制を図る体制づくりが不可欠である.(4)首都圏は多くの鉄道事業者による鉄道が複雑なネットワークを形成しており,効果的な代行バスの運行にあたっては,事業者間を超えたバスの運行ルートを設定することが必要である.(5)事業者間を超えるためには,費用負担のあり方,その調整方法,社会全体で見た場合の効率性や評価指標が必要である.これらの成果から,本研究で当初予定していた平成23年度実施内容として設定したものを,全て明らかにしたといえると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,最終的に首都直下地震発生時において鉄道の運行が長期間運行できない場合に対して,首都圏特有の課題を明らかにし,政策決定支援システムの開発を目指すことを目的としている.そこで,本研究では平成23年度の成果に基づき,首都圏での代行バス運行事例調査(例えば鉄道立体交差化による高架工事や,悪天候による鉄道運行中止による代行バス運行時のデータを収集)を基に,鉄道の迂回乗車や移動を中止した利用者数の推計を行う.また,その結果を踏まえ,制度的・技術的な面からの検討を行った上で,具体的な代行バスの運行計画モデルを提案し,政策決定を行う上での支援システムの構築を試みることとする.また,被災を免れた鉄道路線のターミナル駅や,代行バスの乗車待ち等で滞留者問題が考えられ,それを評価するための指標を併せて提案することで,首都直下地震発生時の公共交通の問題点を指摘し,どの支援策が必要か,どのタイミングで行うべきか,どの程度の規模が必要かを得られることによって,政策シナリオを示すこととする.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費については,基本的に当初計画の予定どおり,設備備品および研究成果発表を中心に使用する.設備備品の購入は年度の早い段階で使用し,研究成果の発表に関しては,年度の中で順次実施していく予定である.
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