腐植物質を介した光化学反応は、湖沼を含めた淡水中において、活性酸素の生成に寄与しているが、その活性酸素種生成や消費を介する腐植物質の化学的因子は十分に解明されていない。本課題では、活性酸素の中でも特に過酸化水素(H2O2)とスーパーオキシド(O2-)の生成機構に着目し、腐植物質を介した活性酸素種の化学的動態を明らかにすることを目的とした。 起源を異にする多様な腐植物質を含む模倣自然水に、模倣太陽光であるキセノンランプ光を照射する実験系を構築した。その結果、H2O2濃度は紫外領域の光照射により時間とともに線形的に増加し続け、一方で、O2-濃度は照射直後に増加するものの、その後減少する傾向が観測された。O2-が不均化反応によりH2O2に変換されるという仮定のもと速度論モデルを提案し、実験データに適合させることで、各活性酸素種の生成速度定数を算出した。腐植物質の化学性質と比較した結果、各速度定数は芳香族含有量と高い正の相関があった。これは、光照射することで芳香族部位、特に電子授与体の働きがあるキノン系部位によって活性酸素が生成されるためと考えられる。 湖沼を含めた淡水中で腐植物質が遍在することを鑑みると、晴天時に太陽光の中でも紫外光が表層水に吸収されることで、活性酸素が容易に生成されることが推測される。実際に、本課題の一部で、相模湖の水サンプルに模倣太陽光を照射したところ、上記実験で得られた活性酸素生成速度と同程度の値が得られた。このような活性酸素が生物や金属循環を含めた自然環境においてどのような影響を及ぼしているのか不明な点は多いが、O2-はH2O2より反応性が高いこと等を考えると、環境中での動態は両分子で大きく異なると予想される。本課題では、腐植物質を介した活性酸素種の生成を定量的に示すことができ、その成果は活性酸素分子の環境中での動態を明らかにするための重要な基礎的知見となる。
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